第21話「二度目の誘惑」

 そして夜。スヤスヤとした安眠は、またも例のヤツに邪魔されてしまった。


『山川中学校二年A組の諸君よ。聞こえているか? 俺はこの異世界を統率するためにやって来た』


 まったく……。赤ん坊は寝ている時間だよ。ん~、力が弱いから意識のない時にしか接触できないのかな? シャンタル将来聖女のように、強くはないのかもしれんなあ。


『世界を平和に導き征服する。俺の下僕たちよ。もうスキルを手に入れたのかな?』


 入れたよっ!


『だとしても無敵の俺にはかなうまい。だから従えいっ! この俺の理想を実現するために、二年A組で道を切り開くんだっ! 俺たちの力を結集するのだ。お前たちの不安は安心に変わるであろう』


 しかしこいつ。導入部分が前回と似てるな~。原稿の使い回しはいけないよ。


『後進国ばかりがより集まった劣等異世界を、我らが知っている文明、芸術、先進社会のように――……』


 いやー、かなり同じ事言ってるねえ。コイツめ。一年でさしたる成果が上がらなかったな。ざまあ。

 一歳になっても厨二を継続中か。そろそろこの世界の現実を知って、それなりに対応してくれよ~。


『――文明とは文化とは何かを知らない異世界人に、叩き込んでやらねばならぬ』


 無理でしょう。さすがに少数の僕らで、この異世界をなんとかしようだなんて。

 少数が多数を支配するのは漫画やアニメの世界だけ。あとラノベも。


『そして我関せずを貫いている者たちよ。命が惜しければこの私に統率されるのだ。この世界の異分子として抹殺される前に目覚めるのだ。同志たちよ』


 だから僕は、貴族だけど中流に振る舞って静かに生きていくつもりさ。もちろん冒険はするけどね。異世界だし。


『我々はついに一歳を迎えた。この世界のスキルを手に入れる者も数多く出てくるだろう。その力を使い我らに協力せよ。我らでこの異世界を支配する。俺たちには可能だっ!』


 それは大いなる誤解、勘違い。少数の大勢が賛同してこそ、それが可能なだよ。

 悪側と分かれば調子に乗った多数は皆去っていく。だから少数がことを成した、と思われたんだ。

 君はまだ、ただの少数。たぶん見た目で強い力を手に入れて勘違いしてるんだろうけど、それは単なる厨二病。銃を持ってても百人相手なら素手にだって勝てないよ。ゾンビ映画はフィクションだけど真実さ。

 僕は素手として使い倒されるのは御免だ。もちろんゾンビもね。最後に逃げるくらいなら、最初から加わらないよ。

 それにしても、我ら――か……。もう誰かと接触しているような口ぶりだな。

 集まれって言ってた意味が分かった。早くにアバター化身具現に目覚めたヤツもいたはずだ。赤ちゃん以上の力を手に入れたヤツらがいるのか。


『歯向かうものは抹殺する。日和見を決めたなら、追い込んでやる。分かったな』


 おっと。本音がでたね。


『我ら転生者たちでこの世界を救う。征服する。賛同する者は我がもとに集まれ』


 知らんがなー。知らん知らん。

 確かに今、この世界に民主主義などひとかけらもない。この国は王制だ。王が頂点に立ち貴族が支配し、権力が力であり、力とは暴力のことなのだ。

 僕たちが住んでいた世界だって、似たようなもんでしょう。

 もっと小さいけど、学校だってそうさ。学力や人柄で評価が決まり、そのまんまそれは階級になって生徒たち皆が意識していた。

 そちらが足りなければファッションやら運動神経か、何かにすがって皆が優位を争っていた。


『俺たちが統率する』


 それが本音かあ。

 この世界は遅れているんじゃない。ただちょっと形が違うだけなんだよ。僕の両親は、あの日本に比べて別に上とか下とか何かとは思わない。


 いや、ずいぶんと考えてしまったけどさ。

 これは異世界に馴染みのある、僕個人の感想です。

 この同級生はあきらめないのかな? 毎年誕生日にこれを聞かされるのかあ……。

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