第20話「化身具現の騎士」
聖堂から門までのあいだに貴族ふうの人たちが大勢いた。今日は僕様の貸し切りってわけじゃないらしい。お母さんたちは会釈してすれ違う。早い時間の、別枠されていたみたいだ。
ん? いたっ! あの赤ん坊だっ! この中のどこかに仲間がいる。
ここにいる人たちの姿からみて、それほど裕福な貴族じゃないみたい。つまり僕より貧乏一家に転生したんだっ!
誰だ? 誰なんだ。
僕の記憶は未だ曖昧だ。顔はなんとなく思い出せるが、名前は今でもよく分からない。
赤ん坊の容姿ではまだ性別不明だし。相手にしても、今の僕をそう思うだろう。
今回もすれ違うだけで、それ以上の接触はできなかった。
僕の家はこの世界では、かなり上の貴族なのだ。つまり異世界転生した他の同級生はほとんどが僕より身分が下だと考えられる。
身分社会。つまり、生きている世界が違えば、これからの出会いも制限されるのだと思う。中流身分としてずっとやってきた僕には、なんだか生きづらい環境になってしまった。
貴族の義務とか、本当カンベンだよなー。
なんとか仲間を探さなくちゃ。仲間? 僕に仲間なんていたっけ……。
なんだ。急に眠くなってきた。これはさっきの副反応なのかな。
そろそろ昼寝の時間なのか。とりあえず難しいことを考えるのはやめて、眠るとしよう。僕はまだまだ赤ん坊だ。
現実逃避っ!
◆
はっ!
目が覚めるとそこは僕の部屋だった。カーテンからは薄い月明かりが差し込んで、天井の絵がぼんやりと見える。
あのまま、こんな時間まで寝てしまったようだ。
うえっ。なんだか気持ち悪い。いつものアレだ。ゲロスキルだ。
「オエーッ!」
僕の口から溢れ出た白いマイ・スライムが、そのまま流れて床に落ちる。それから、まるで滝登りのように立ち上がった。ゲロがだよ。
これは時々ネットなんかで見るオカルト的なやつなのか!
僕の体の中から出てきたとはいえ、あまりにも気持ち悪すぎるだろ。
それはアメーバみたいにうにうにと動きながら広がって、人のような形になっていく。白色が黒色にかわり闇に溶け込む。
そして黒き鎧の騎士、みたいな姿になった。これが僕のスキルか。
すごい。でも――。
なんか悪役みたいだなあ。
イマイチっ! やっぱり黄金とか赤いやつとかハデなのが好みです。わがまま贅沢言い放題。
さて。こんな力を手に入れたんだよ~。早速行使するか。その黒い騎士は僕の意識に反応して回れ右して歩き出した。
おーい……。
壁にぶつかると思いきや、体はそのまますり抜ける。実体があるようでないような存在なんだ。
目の前には庭の景色が広がる。僕の意識と連動しているんだ。スゴイ!
おっ。
ピンクの子猫が現れた。
『魔力暴走を防ぐために強制排出させたが、簡単に具現化させるであるか』
なるほどお目付役なんだもんね。幼女は寝ている時間じゃないの? 悪いね。仕事させて。
これって何?
『その姿は
ほう。スキルですか。ラノベふうだけど、金の鎧に変更したいんだけど
『無理』
赤いやつでも……。
『不可能である』
そう……。あきらめるか。僕が陽キャなら、ハデハデの豪華鎧になったんだろうし。この姿は自己責任。嫌な言葉だなあ。
まっ、しゃーないか。
腰の剣を抜いてみる。飾りじゃないんだ。とりあえず屋敷の庭で刃物を振り回すのはまずいと思い鞘に収める。
このままじゃ、不審者の不法侵入だ。頭と心の中で気合を入れて飛び上がると、体はそのまま空中に浮いた。猫が背中に飛び乗る。
『教えなくとも、できるであるか?』
心で念じる。お約束だね。よしっ!
僕はそのまま空を飛んだ。まっ、これぐらいは普通だよね。簡単、簡単。
そうだっ! 大事なことを思い出した。
今日の診断で、もう一人も僕と同じ力を持っている人はいたの?
『いや、聞いていないであるが』
いや、そんなはずは……。
『私はあのあと責任司教に任せ、総本山に向かったである』
僕みたいな人は、僕だけなの?
『そうである。報告はきていない。前回は司教の安静を考え、やや強い力の診断は後日とされた』
そうか……。今日は魔力を行使された、ではなくて僕が感じた側だった。ただの魔力を勘違いいたのかもしれない。
『転生者はどこかにいるかとは思う。だがお主ほどむき出しに魔力を溢れさせる者は、まれである』
僕は優秀だね。いや、お守り付の危ない赤ん坊かあ。
『そうである』
やれやれ。劣等生か、と思った瞬間ガクッと高度が下がる。
『慣れが必要であるな。今日はここまでである』
いきなり最強は無理か。
そのまま屋敷に向かって降下すると、体は屋根を通り抜け部屋に戻る。目を開けるともう赤ちゃんの体だった。白スライムは口から体内に入り込む。
『この姿とこの屋敷の関係は、知られてはならないである』
だね。不審者みたいのが名門貴族の屋敷をウロウロしていたら、週刊誌ネタだよ。
さて、二度寝しよう。また眠くなってきた。
この世界の言葉は独特に作用する。例えば声はアバターと聞こえるのに、頭は化身具現と理解している。
言葉を知らない僕も話の意味を理解できる。そして耳で覚えた音は記憶に残り言語として蓄積される。
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