第17話「Mのためが誕生会」

 僕のために、ささやかなお誕生日会が開催された。やっと一歳だ。

 父方のお爺ちゃんとおばあちゃん。それと母方のフェリクス叔父さん。お父さんの仕事関係や、お母さんの子育て仲間の貴族たちもいる。僕のお祝いというより、何やらリラックスした様子で世間話などをして笑っていた。要するに僕はダシに使われたのか。

 招かざる客もやって来た。ドM令嬢再びの登場だ。

 むむっ!

 他のお客さんはその姿を見ると次々に挨拶に行く。

 ふーん。やはりかなり身分が高っぽい。皆様の態度がそれを表している。ますます本日の主役である僕の存在感が薄まってしまった。まあ、いいけど。

 クリーチャーMは、おかげさまで僕に近づく暇もない。ざまあ。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんは、こんな状況でもやっぱり僕サイコーだ。一生懸命構ってくれている。退屈しないな。

「おじー」お爺ちゃん。

「おおっ!」

「おばー」お婆ちゃん。

「まあっ!」

 高齢者は、ちょっとしたサービス対応で大興奮。チョロい。


 一瞬クリーチャーMと目が合ってしまった。相手はニヤリと笑い、キラーンと目を光らせる。

「ばあーっ」ヒーッ!


 僕は緑の絨毯の上に敷かれた敷物の上に座る。その範囲内で【はいはい】などを披露して、お客様たちを楽しませた。

 半径一メートルほどでグルグル回る軽芸だ。

 お爺ちゃんは感心した様子で僕を見る。

「なかなか成長が早いのではないのかな」

「どうでしょうか。元気な子供に育っております。最近はつかまり立ちも覚えたんですよ」

「ほう、それはすごいな。なんとも凛々しいではないか」

 いやいや。ただのつかまり立ちです。仁王立ちではありません。

「よし! お爺ちゃんにつかまって、少し歩いてみようか」

 えー。まだ結構疲れるんだよなあ。

「さあ、お前も手伝いなさい。二人で孫を支えようではないか」

「あなた。まだ早いのではないですか」

「大丈夫、大丈夫」

 お婆ちゃんはさすがに分かってらっしゃる。だけど馬鹿なお爺ちゃんは、赤ん坊の気遣いよりも自分の満足しか見えないのだ。まったく……。

 靴を履かされ、両脇両手を繋がれる。

 これはネットで見たことあるな。確かFBI捜査官が捕まえた、ちっちゃな宇宙人の画像だ。

 で、僕は五メートルほど無理矢理引きずられるように歩かされる。招待客たちはわざとらしく歓声などあげた。王政府高官への接待だ。

「さあ、もう一度だ」

 ウケたと思ったおじいちゃんは、更に張り切ってしまう。

 あなたへの称賛では無いのですよっ! まったく……。なんと三往復も強制労働させられてしまった。

「ヒーヒー、ヒーッ……」

 息が上がる。今の僕の五メートルは、百メートルダッシュに等しい力を使うんだ。これは体育会系のシゴキだよ! 抗議するっ!

「あなた、もうそれぐらいにしてあげて下さいな。まだ歩けるのではないのですから」

「いやそうだな……」

 お婆ちゃんに諌められて、お爺ちゃんはちょっとやり過ぎに気がついてくれたみたい。僕の抗議が効いたね。

 やっと解放され敷物の上でごろ寝する。疲労が眠気を誘う。

「あらあら……」

 気がついたお母さんが僕を抱きかかえ、部屋まで運んでくれた。やっぱりお母さんは僕を見てくれているんだな。ありがとう。


 少し眠ってから目が覚めた。まだ外は明るいし、たいして時間も経っていないみたいだな。

 はっ!

 扉の隙間に目が光る。

「会いたかったわ。坊や……」

「ぶひー」うひー。

 出たー。悪の大将軍。令嬢M!

「こんなところに隠れていたのね。逃さないわよ。悪をとことん追い詰めるのがこの私の流儀」

「うーうー」誰が悪だーっ!

「どう? きちんと戦っている? それが貴族としての務め。我々の義務」

 僕は今日一歳の誕生日なんだぞー。戦えるかーっ!

 もちろん毎日ユルクマとは戦っているけど。

「これは、剣なのかしら?」

「バブー」そうだよ。

 それは子供が遊ぶためのユル剣だ。布を細く長く縫い合わせ、その中に綿を詰めている。これでいくら打ち合おうが痛くも痒くもない。もちろんまだ一歳の僕には早すぎのおもちゃだ。

 令嬢Mはそれを何度か振る。

「ふーん。これいいわね。早速試してみましょう」

 ひっ!

 ニヤリと笑ってから僕ににじり寄って来た。うつぶせにされペロンとお尻をかれる。また羞恥プレイだ。

「とうっ!」

 ぱふん。

「えい、えいっ!」

 ぱっふん、ぱふん。

 はう~。

 お尻をぶたれた。痛くも痒くもなく、何とも言えない感触だ。これもまた癖になりそう。ヤバっ!

「いまひとつですね。武器を使うばかりが戦いではありません。やはり格闘も必要ですわ」

 パン。

「ブヒィ~」くあっ。

 素手での戦いに切り替えられてしまった。確かに武器にばかり頼ってはいけないのだ。でも……

 ぱあん、ぱあん!

 無抵抗の赤ちゃん相手に卑怯なり。

「プヒィ~」やめてくれー

「うん。これくらいかしら?」

 ふうー。不条理なしつけが終わったぜ。恐るべし快感であった。

 僕はパンツを上げられ仰向けに直される。

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