第18話「僕の部屋の模擬戦」

 ノルーチェ様は先程のおもちゃ剣を持った。何度か振ってみる。

「なるほど。剣を手先で使ってはいけない。これはそれを教えてくれるのね」

 そしてゆっくり大きく振った。さらに速度を上げる。

 本当になるほどだ。遠心力を使い、剣を振るう練習になる。

 いつしかノルーチェ様は夢中になってしまった。赤ちゃんに構わないなんて、なんて勝手な子供だ。僕の面倒をもっと見なさい。

 頭上で魔方陣が回る。お母さんがやって来た。

「フランカ様……」

「アル君のミルクの時間なのよ。それ、振っていたの?」

「素晴らしいのですが……。でも、私ではこのように剣は使えません。多分」

「ランの好みね。魔力補助の大剣使いに育てたいみたいなの。多分無理だと思うけど」

 ふうむ。英才教育ですな。大剣、おおいにけっこう! 僕は、主役キャラは遠慮だけど。

「私がやってみるわ」

 お母さんはそのユル剣を受け取った。そして窓の先の庭を見つめる。

 大きく振りかぶる。ゆっくりと振る。

 が何も起こらないな。当然――、ん?

 いや。でも……。

 大きなガラス窓の二枚扉。外はテラスなっているが、その先にある木の枝の葉っぱ。その一枚がはらりと落ちた。そして十文字に切られる。その後四枚の葉は粉々に切断された。

 すごい。窓や壁をすり抜け、そして時間差をつけて衝撃を飛ばしたんだ。

 驚くべきはもう一つ。こんな小さな葉っぱが、なぜか大きく見えた。僕の魔力のせいか。

 いやいや。お母さんの力も驚きだ。これがこの世界の冒険者なのだ。

「すっ、すばらしいですわっ! 冒険者メイネルス・フランカの伝説的制御。もはや芸術です」

 う~ん。お母さんの旧姓時代の呼び名なんだな。

「王宮の人たちは、もっと上手に使うわよ」

「多分そうではありませんわ。王宮の人たちが使うのは、王宮の魔力制御ですから」

「私は冒険の中で作られた制御ですから。確かにその通りですね」

 なんだかよく分からないけど、とにかくお母さんがすごいのは分かった。ノルーチェ様もよく分かっているのだろう。とにかくすごい。


 もう一度庭に出てお披露目される。ミルク飲み芸も披露した。ほどなくして楽しいパーティーはお開きとなる。

 散々おもちゃにされて、遊ばれてしまったお誕生会でした。


  ◆


「いやあー。最初誕生会なんてどうかと思っていたけど、やってよかったんじゃないかな」

「ええ。ノルーチェ様がぜひ私も行きますから、なんて言うのだからずいぶん賑やかになったわね」

 完全に僕のお尻は狙われているな。

「アルをお気に入りみたいだな」

「良かったわ」

 あんまり良くはないかなあ……。正体Mの偽装Sだし。それも無自覚の。

「ハウスマンス公国では一歳の誕生日は盛大にやるなんてなあ」

 ちくしょうそうだったのか。この僕のお尻をペンペンするための口実が欲しかったんだ

 ハウスマンス公国? そこの令嬢? Mが? ハウスマンスって、ただの苗字じゃなかったの?


 この世界の状況は、赤ん坊ではどうにも知ることができない。歴史だって社会だって学ぶことができないんだ。知りたいことがいっぱいあるけど、知れないなんて初めての経験だよなあ。本も読めない。ネットもスマホもないし。

 まっ、赤ん坊としては普通かあ。

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