第11話「貴族の一家」

 指しゃぶりが癖になる。カッコ悪いが赤ちゃん本能には勝てない。

「おえっ!」ヒィッ!

 口から白い液体が出てきた。

 なんじゃこりゃ!

 体調が悪いわけじゃない。何かが体の中から湧き出したような感じだ。

 これは? スライム? まさかねえ。

「うーうー……」気持ちわりー。

 それは、今度は口の中に入り込む。出たり入ったりだ。

「うーうー……」気持ちわりー。

 これは異世界人特有の現象なのかなあ?


 この謎現象は時々起こった。得に不快感もないので、そのうちに僕も馴れてしまった。結論。これはスライムではない。

 とにかく口からスライムを放出する、役立たずスキルではなくてホッとした。


 ある日の休日、僕は庭でゆりかごに乗せられ、お父さんとお母さんの傍に置かれる。体を揺さぶるたびカゴが揺れた。

「王政も色々と大変ねえ」

「うん。でもやりがいはあるよ。自分で戦っていた方が楽だけど」

「あはは。あなたらしいわ」

「君こそ大変だろう。家の事は任せっきりだし」

「いいえ。領地経営は順調だし、アルはとても良い子よ」

「そうかな?」

 お父さんはこちらを見た。目が合ってしまう。

「ばぶー……ぷぷー」良い子ですよー。

 もしかして、疑いのまなこ?

 二人の会話。たわいのない掛け合い。王国の重要案件等について。世界について、難しい話もしている。

「最近の王都周辺って、どうなの?」

「相変わらずだ。散発的な戦いが続いている。それと街道警備だね」

「やっぱり魔獣の脅威って、そのまま消えてしまわなかったのね」

「この世界がある限り続く現象なんだよなあ……」


 平和な世界だと思っていたけど、そうでもないらしい。王国の行政官であるお父さんの仕事はなかなか大変そうだ。

 癒やし系の気分転換をして差し上げましょう。

「うきゃーっ!」どうだーっ!

 僕は必死に手をかざし魔力アピールをする。これは親に認められたいという子供の本能なのか、それとも魔力を使いたいという僕の本能なのか。

 半分意識、半分本能ぐらいかな? これが、この世界の魔力ってこと?

「やっぱり、魔力を行使しようとしているわ」

「意識的に? さすがにそれはないだろうけど」

 それが、あるんだなー。

「本能でよ。放出したいって体が言っていると思う」

「大人と同じで、やっぱりストレス解消が必要。魔力が有り余っているならば、使うが本能……か」

「人間だものね」

 魔力放出か……。不気味な白いゲロ放出のこと? 同じ人間かと思ってたけど、今の僕には前世にはない魔力の本能が加わっていた。

 これが異世界か……。


 昼間は寝返りしつつ。窓の外の景色を眺めている。この屋敷への来訪者はなかなか多い。窓の外を眺めていると、それはよくわかる。

 冒険者だったり商人ふうであったり、貴族だけではなく庶民もいる。僕の顔をひと目見に来る者もいれば、そうでない人もいる。

 これがここの世界観なんだな。

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