第10話「順調なる成長」

「ばー」そりゃ!

「ぶーすー!」どうだっ!

毎日が暇人の僕は、魔力の訓練に勤しむ。

といっても、上に両手をかざしバタバタ動かしながら、それらしきセリフを言ってみるだけだ。

そもそもこれが訓練になるかどうかなんて分からない。

でも実際使っていた赤ん坊もいた。ならば僕にできないはずがない。こちらも力を使い、なんとか相手を探さないと。

しかしあれは誰なんだ? 少しずつだけど同級生たちの、顔と名前を思い出し始めていた。僕の脳味噌も成長してきたようだ。


とにかく今は、手を動かして魔力発動の練習だ。やり方は本能に任せる。

はっ!

偶然メイドさんに見られてしまった。家政婦は見た、展開だ。ほどなくしてお母さんがやって来る。

手をバタバタと動かし、それらしい仕草をする。偶然に起きた現象だとごまかす。

「あらあら、アル君は元気ねえ」

僕はやたら強い力は、あまりうまくない現実だと思い始めていた。だからごまかす。勘だけどこぞの世界の転生者なんて、やっぱりイレギュラーの存在だ。

それにお父さんとお爺ちゃんの会話。頭に語りかけてきた、厨二病の元同級生。

どう考えても、転生者なんて否定される存在だと思った。


しばらくして親戚やらからプレゼントされた、なんやかんやのさまざまなおもちゃがやって来た。よく知っている積み木もあれば、よくわからない物もある。

続々と僕への貢ぎ物が集まった、という感じだ。いいね。

これは前世のガラガラと言うやつかな? よーし、やってみよう。

なんだこりゃ!

手に取ってブンブン振ってみると、空中が何やらキラキラと輝く。

すごいなぁ。どんな仕組みになっているの?

「遊びながら魔力の使い方を学べるのよ。本当に効果があるのねえ」

ほーっ。僕への英才教育用のスペシャルおもちゃなんだな。

しばらくこれで遊んでやるかね。積み木系は、お座りできるようになってからだな。


ある日の午後、母方のお爺ちゃんとお婆ちゃんが訪ねて来た。僕は人気者ですねえ。

「ほう、フランカの赤ん坊の頃にそっくりじゃないか」

「あなた、男の子です。ランメルトさんにそっくりですよ」

「そうかなあ……」

「そうですよ」

お爺ちゃんは娘に似ていると言い、お婆ちゃんは義理の息子に似ていると言う。

まあ、バランス取れてるよね。

「フランカは元気でしたか?」

「はい。よくしていただいてます」

「しかし、あの時の冒険者の小僧が、いまだにこの屋敷の主だとは信じられん」

「あはは、まだ言っているんですか。お父様」

「我がクライン家みたいな、田舎の小さな貴族の娘をもらってくれるなんてなあ」

どうやらお母さんは地方の零細貴族出身らしい。お父さんとお母さんにも、いろいろ歴史があったんだなあ。

近況を報告し合ったり、お爺ちゃんは王都に来た用事等を説明したりした。久しぶりの親子の会話みたいだ。

お母さんの弟に会うためにと、年に一度の公務報告もあるらしい。

「故郷の様子はどうですか?」

「魔獣の被害が増えているな」

「大丈夫なの?」

「陳情もしてみる。ゼルニケ卿の書簡も持って来た。なあに、まだそれほどでもないさ」

お小遣いはないみたい。まっ、取れるところからいただくので無理しないでね。


夕食は賑やかな宴となった。お母さんも、とても嬉しそうにしている。

お父さんが一生懸命にお爺ちゃんとお婆ちゃんの相手をしていた。なかなか気遣いのマスオさんだ。

お父さんとお母さんの歴史が興味深い。上級貴族の息子が、どうやって地方の令嬢と知り合ったんだろうか。

「ふぁーっ……」

とても興味深い話が続いているけど、もう限界だよ。

「お眠の時間ね」

僕だけいつもの部屋に移動されて仲間はずれだ。おやすみ……。

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