第8話「君の名前は。」
うおっ!
そこには、まんまファンタジー世界の棺桶が鎮座していた。吸血鬼が眠っているやつだ。いや、外国には普通にあるやつなのかな?
おわっ!
僕は有無を言わせずそこに寝かされる。
「いや、ご心配めされるな。名前は物騒なのですが、高い魔力を測定する導具なのですよ」
フタがないのはせめてもの救いか。このまま埋められたりはしないだろう。
しかしお母さんはますます不安顔だ。
「暗黒すら測定する、といった意味らしいのですが、命名者が少々ぶざけたようです」
「そうですか……」
ふざけんなーっ!
「大幅に魔力を使うので、修道女が心配したのでしょう。しかし、まだまだ若い者には負けませんよ。はっはっはあっ」
負ける。老人負けるな。若い者には負けますよ~。
僕のいた世界では、お爺ちゃんは家に引きこもり、ただ孫にお小遣いをあげるだけの存在なのですよ~。
良かった。どうやらこの棺桶に入るのは僕じゃなくて、このおじいちゃん司教様のようですな。無理しないでね。
「あの、もうこれ以上の検査は……」
お母さんも同意見のようです。修道女さんたちの表情が、危険度を物語っております。
「魔力の測定不能など、ここの責任者である私の
「でも……」
「教会部外者は口を出さないでいただきたいですなっ!」
「はあ……」
老人は口を尖らせ、ムキになって反論する。せっかくお母さんが気を遣っているのに、小馬鹿にされているなどと勝手に勘違いをしてしまったようだ。
これだからお年寄りは……。
「さてさて。ささっと簡単に終わらせますかな」
ただの頑固お爺ちゃんは、僕の頭上に両手をかざす。
棺桶全体が怪しく光り始めた。
「むむっ……」
顔を歪めて呻く。早くも苦戦の兆候現るだ。
「くうっ、はあ、はあ……」
息も荒く、必死に僕の魔力測定を試みる。顔が赤くなってきた。まずいじゃん……。
心臓、大丈夫?
「ぐあっ!」
ひっ! お爺ちゃん司教様は胸を押さえて苦しみ出した。まずいじゃん!
「はうっ!」
「司教様っ!」
バタンと倒れる。まずいじゃん!!
「人を呼んで来て。それと担架を――」
「はいっ!」
お姉さん修道女さんが指示を飛ばし、若い修道女さんたちが動く。
予想したとおり、えらいことになってしまった。
僕たちは別室に移動ししばし待機となる。
修道女さんがお茶を持ってきてくれた。
「あの、司教様のお加減はいかがですか?」
「大丈夫ですよ。少々魔力が枯渇しただけです。お詫びに参りますので、もう少々お待ち下さい」
「はい」
命に別状がないのは何よりだ。
「申し訳ございません。ですのでご子息様の魔力測定は無限大となります」
「いいんです、いいんです。大丈夫ですからっ!」
お母さんは慌てるように両手を振った。
ここにこだわってしまっては、お爺ちゃんの沽券に関わる。
「司教様は少し休めば元気になります。いつものことですから」
「そうですか」
いつも!?
お姉さん修道女さんは苦笑いし、お母さんは胸を撫で下ろす。
どうやら僕は老人キラーになりそこなってしまったようだ。良かった。
そして再びの待機。
突然、僕はヘンな感覚に包まれた。
えっ? 誰かに見られてる? 僕を探してる?
何かを感じた。それはたぶん魔力。誰かが僕に魔力を行使しているんだ。
で、お爺ちゃん司教様がやって来た。このストーリーはまだ続いていたか。忘れてた……。
「いやはや、ものすごい魔力量ですなあ。行く末が楽しみです」
「お世話になりました」
「この私が失敗――、いえ、少々手こずるなどなかなかの逸材ですぞっ!」
「はあ……」
はあ……。そうです、そうです。お爺ちゃん。手こずりました。
失敗、ぷっ――。
なんだかんだあったけど、やっと終わったよ。やっと帰れる。
待合室には中級の貴族。そして、おもてには下級貴族たちが列を作っている。
完璧な階級社会だ。
僕たちは上級貴族なので、さっさと先に済ませて帰れるのだよ。
誰だ? やっぱり見られている!
僕は仲間がいないか、必死に周囲を見回す。
そこである赤ん坊と目が合った。そしてこの赤ん坊が、ずっと僕を見ていた犯人だと気がつく。
間違いない。同じ転生者だ。
「バブーブー」ちょっと待ってくれー。
抵抗むなしく僕は馬車に乗せられた。そして屋敷へと向かう。
他の転生者と出会えるチャンスだったのに……。
それにしても……。
魔力が測定不能なんて凄いじゃんか。やっぱり僕はチート転生者なんだな。
赤ちゃんの思考は飛び飛びだ。
無理矢理に思案を重大代案件へと戻す。僕を探し求めていた何者かについて。
君は誰?
◆
お母さんは僕の部屋で本を読みながら過ごしていた。絵本の読み聞かせなんかは、もうちょっと先になるのであろう。
夕方になりお父さんが帰宅する。
「お帰りなさい、あなた」
「うん。健康診断はどうだった?」
「それがね……」
お母さんは今日一日の出来事をお父さんに話す。
「それは大変だったなあ」
「びっくりしちゃった」
「暗黒の棺を持ち出したのか。あれはちょっと魔力を使うんだ。司教様には少々荷が重かったようだね」
「測定不能なんてどうなの?」
「今日はゼロ歳児測定の用意しかしていなかったからなあ。二歳児くらいの魔力でも多分そんな判定になっていたと思うよ」
「何だあ。そうなんだ」
「それでもすごい。さすが私たちの息子だね」
「すごいわね。アル君」
「ばぶー」なんだよー。
そりゃそうだよなぁ……。
そんなに魔力があるなら簡単に物を動かしたり空を飛んでどっかに行ったりとか、創造魔法で何かを作り出しとかやってるよなあ。
ここは二歳児並みでも良しとするか。
僕はまだゼロ歳児。異世界にチートなしだ。
「いくら魔力があったとしても、発動は成長と共にあるからな」
「もうちょっと時間がかかるわねえ」
そうか。発動かあ……。
でも、もう発動している赤ん坊が一人いた。あの下級貴族たちの中にいた。
僕の元同級生。
あれは僕の魔力を確認していたんだ。そしてこちらも転生者だと認識した。
だから僕は、そう感じたんだ。
「どんなスキルを手に入れるのか、楽しみだね」
「ええ、そうねえ。何かしら?」
「ははっ、分からないさ。俺たちとはまったく違う、神からの祝福だしね」
「良いスキルに恵まれて欲しいわ」
「うん」
やっぱ、スキルってあるんだ……。
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