旅立ちの時

「本当に行くのか?」


「もう決めたんだ。」


父、母、兄、おじいさま、おばあさま。

僕は父さんの問いかけに応えた。


「おじいさま、

本当に大丈夫なのですか?」


兄さんがおじいさまに質問する。


「異世界転移は問題無い。

だが、行った世界でどんなことが待っているかはわからない。」


「レックスは戻って来られるんですよね。」

母さんがおじいさまに問いかける。


「問題無いよ。

レックス、いいかい。

向こうに行っても年に1度は帰ってきなさい。ちゃんと元気な姿を見せに来るんだよ。」


「わかりました。」


「これは餞別のマジックバックだ。

中には便利なアイテムをいくつか入れておいた。あっちで上手く使ってくれ。」


「ありがとうございます。」

僕は深々と頭を下げた。


「レックス、

どこに行ってもお前は私の子どもだ。

キーファ=ドラクロアの息子として恥ずかしくない生き方をするんだぞ。」


「はい。

キーファ=ドラクロアの子、

レックス=ドラクロア。

父上から受け継いだ意志は失くしません。」


父さんと固く握手をかわす。


「無理をしないでね。

それに年に1度と言わず、帰ってきていいんだよ。」


母さんがぎゅっと抱きしめてくれた。


父さん、母さんとそっと離れる。


「おじいさま、お願いします。」


「わかった。

こちらに来なさい。」


おじいさまの目の前に立つ。

おじいさまが僕の頭の上に手を乗せる。


「異世界に着いたら、簡単な説明を受けられるはずだ。よく話を聞くんだよ。」


誰から???


「わかりました。」


こういう時のおじいさまは説明してくれない。


「それじゃあ、始めるよ。」


「お願いします。」


父さん、母さん、兄さんの方を見て、

頷く。


「行ってきます。」


強い力に包まれる。

いつもの転移に似た、不思議な浮遊感に包まれる。

視界が歪む。



次に目を開けた時にはおじいさまも両親もいなかった。

不思議な空間。

部屋?


「よく来たね。」


声のした方向を見ると、椅子に座った若い男性。頭しか見えない。


「レックスだね。」


椅子がくるりと回る。


「えっ!?」


顔がおじいさま?

でもかなり若い。


「その感じ、、、

ウィルから何も聞いてないの?」


「おじいさまからは異世界に着いたら、簡単な説明を受けられるはずだから、よく話を聞くようにだけ言われました。」


「は~、ウィル、楽しんでるな~。

まずは自己紹介から始めようかな。

私はウィルツー。

ウィルと魂を分けた存在であり、

この世界の神様だ。」


「え、あの、

よくわからないんですけど、、、」


「どのあたりがわからなかった?」


「おじいさまと魂を分けたとか、神様とか、わからないことだらけです。」


「そうだな~。

まずは神様ってさ、別に万能な凄い存在って訳じゃないんだよ。

強い力を持った世界の管理者。

それを便宜上、神様と読んでいるだけなんだよ。

それでさ、この世界の神様が不在になったから、スカウトされて神様をやることになってね。今に至るって感じかな。」


「・・・パニックです。」


「だよね~。

だからウィルは私に丸投げしたのかもね。

あっ、私は元々、ウィルが切り離した力なんだよ。まぁ独立した分身みたいなものかな。今や、本家のウィルより力は格段に上だよ。」


「何がなんだかわかんないですけど。。。

とにかく、ウィルツー様はこの世界の神様なんですね。」


「そういうこと。

そっちの世界の女神エルカレナと同じ仕事をしているよ。」


おじいさま、、、

まさか分身が異世界で神様してるなんて。

想像を超え過ぎて頭がおかしくなりそうです。


「さてと、レックス。

この世界にようこそ。

と言いたいところだけど、

実はまだその世界に入っていないんだ。

ここはその手前、私の神域だ。」


「ウィルツー様の神域。」


「右も左もわからない異世界にいきなり放り出されても困るでしょ。

だから、ここで少しだけ世界のことを勉強してから、異世界に行ってもらおうと思っている。いいかな?」


「ありがとうございます。

お願いします。」


「じゃあ、ちょっとついてきて。」


ウィルツー様の後ろをついて行く。


部屋を出て、案内されたのは図書室だった。

たくさんの本がところ狭しと並んでいる。


「ここにはこの世界の知識が本の形をして記録されている。

まずはこれを読もうか。」

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