異世界転移

「この世界のような世界が無数にあるんだ。」


「世界が無数にあるんですか?」


「そうだよ。その世界の境界線を越えるのが異世界転移だね。」


「そんなこと可能なんですか?」


「可能だよ。難易度は高いけどね。」


「でもディアッカさんの研究じゃ無理なんですよね?」


「う~ん。

説明が難しいけど、海図もコンパスも持たずに海にとりあえずこぎ出すような感じかな。

運が良ければどこかにたどり着けるかもしれないけど、そこがどんな世界かわからない。

それにこの世界にも帰っては来られないね。」


「そこがクリア出来れば異世界に行けるんですか?」


「それが難しいんだよ。

何せ初めて行くところの地図を事前に用意するようなものだからね。

レックスは異世界に行きたいのかい?」


「・・・行きたいです。

この世界から抜け出したいです。」


「理由を聞いてもいいかな?」


「僕はドラクロア家を誰も知らない世界に行きたいんです。

誰も僕を見てくれない。

ドラクロア家の落ちこぼれ、レックス。

そんなレッテルの無い世界があるのなら行きたいんです。

僕は、

僕は、、、

僕を見て欲しい。

この世界では無理なんです。。。」


レックスの瞳から涙がこぼれる。


「すまなかった。

レックスがそれほど悩んでるとは気づかなかった。

少しだけ、時間をくれないか。」


「・・・どういうことですか?」


「異世界転移が安全に出来ないか考えてみるよ。」


「本当ですか!?」


「もちろん、絶対に出来るとは今の段階では言えないからね。

年末まで待って欲しい。

準備をしよう。」


「準備ですか?」


「そうだよ。

異世界では誰も助けてくれない。

レックスがどんな世界でも生きていけるように、準備しないとね。」


「本当に、

本当に異世界に行けるんですね!」


「まだ絶対とは言えないよ。

私も異世界に行ったことないからね。」


「わかりました。」


「週末は帰ってきなさい。

私がどんな状況でも戦えるように鍛えよう。」


「お願いします!」




それからの毎日は色が変わった。

おじいさまが異世界転移を準備してくれるんだ。期待しない訳がない。



ディアッカさんの家には論文を返しに行った。

「ウィリアム=ドラクロア様は何かおっしゃってましたか!?」


ディアッカさんの圧が強い。


「優秀な研究者だとおっしゃってましたよ。

ただ、このままでは失敗するだろうとも。」


「失敗する理由は何かおっしゃってましたか?」


「海図とコンパスを持たずに海に行くようなものだと。

この世界から飛び出すことは出来たとしても、別の世界に入る、戻ってくる、という部分の研究が足りない。

生きて戻ってくるところまでを考えなければ、異世界転移の研究は完成しない。

だそうです。」


「なるほど、、、

さすがです。

論文を読んだだけですぐにそこまで見通されるとは。」


「これを」

レックスが手紙を差し出す。


「これは?」


「おじいさまの書状です。

更に研究が進めば、是非顔を出して欲しいとおっしゃっていました。

この書状を見せれば、おじいさまと面会が可能です。

それと、わずかですが奨励金もお持ちしました。」


「お、お、おぉぉぉ、、、

まさか、私の研究をウィリアム=ドラクロア様に認めて頂けるとは!?

なんたる光栄!

信じられない!」


ディアッカさんが歓喜に涙している。

おじいさまは生きる伝説。

その一挙一動は想像以上の影響がある。


「ウィリアム=ドラクロア様に見せても恥ずかしくない論文を仕上げてみせよう!

再び、お褒め頂けるように全身全霊をかけます。」


ディアッカさんが燃えている。

今までも十分、研究に没頭してたと思うけど。これ以上研究にのめり込んだら、寝食を忘れて餓死しないか心配だよ。



一方、僕は週末の度におじいさまの特訓を受けている。

毎回ハードモードだ。

色々なシチュエーションで生き残れるように鍛えられた。

その行程でレベルも100まで上がった。

レベル100になってもスキルは覚えないし、能力はイマイチのままだけど。


僕はスキルは使えない。

スキル無しでも戦えるように、戦闘技術とスキルではない能力の向上方法。

古代魔法の入門編にあたるらしい。


レベルやステータスに現れない能力。

そこを大幅に強化してもらった。

地獄のような特訓だったけどね。

ステータスの差が倍ぐらいまでは戦えるようになったよ。

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