異世界研究

ムーニーがノックをしたが何の返事も無い。


ガンガン


ノックとも呼べない勢いでドアを叩く。

それでも返事は無い。


「留守かな?」

「そんなはずはないわ。

きっと研究に集中し過ぎてるか、

寝ているかのどちらかね。」


ムーニーがドアノブを回すとドアが開いた。

ずかずかと入っていくムーニー。


「いいのか!?」

「大丈夫よ。」


そこには机に向かい、頭をワシワシと掻くおじさんがいた。


「失礼します。」

レックスが小声で言う返事は無い。


ムーニーが肩をトントンと叩く。

ようやくおじさんがこちらを見て、

「ムーニー様か。」


「ムーニー様か、じゃないわよ。

今日はスペシャルなゲストを連れて来たのよ。」


「ん?」

興味無さげにこちらを見る。


「レックス=ドラクロアです。」


「なっ!?

ドラクロア!、、、様。

本当か!?」


異常な食いつきをみせる。


「どうしたのよ?

レックスが引いてるじゃない。

何があったのよ。」


「す、すまない。

興奮してしまったんだ。

私の研究を完成させる為の最大のキーパーソンはウィリアム=ドラクロア様なんだ。

だが一介の研究者にウィリアム=ドラクロア様に面会を求めるツテなど無いからね。

君はウィリアム=ドラクロア様の血縁者なんだろ?」


どこに行ってもおじいさまだ。

まさか、ここでもおじいさまの名前を聞かされるとは思わなかった。

辟易する。


「僕は孫です。

でも何故、異世界の研究におじいさまが関係するんですか?」


「うむ、その説明には異世界に行く方法が関わってくるんだ。

いいか、異世界に行くと言っても、大きな括りで言えば、転移魔法だ。

転移する場所が世界をまたぐほどの遠距離というだけだ。

そこで世界一の転移魔法の使い手と言えば誰だ?」


「おじいさまです。」


「そうだ。

そして、世界を超えるには膨大な魔力が必要だ。魔力は大量の魔石を用意すれば用意は出来る。しかし、その膨大な魔力をコントロールするのが難しい。

世界一の魔力コントロール力を持っているのは誰だ?」


「おじいさまです。」


「私はな、ウィリアム=ドラクロアは異世界への転移も出来るんじゃないかと考えている。」


「それでいいんですか?

長年研究してきたことを簡単にパッとやられてしまっても。」


「私の研究が証明されるなら問題無い。

『誰が』はどうでもいいんだ。

会わせてもらえないか?」


「おじいさまにお会いしたい人は山のようにいます。簡単にお連れする訳にはいきません。」


おじいさまは生きる伝説。

面会希望は後を絶たない。

おじいさまは気さくな人だから、すぐに会ってしまう。それを防ぐために、簡単に人を連れて来ないことがルールになっている。


「そうか、、、

なら私の論文をウィリアム=ドラクロア様に見せて頂けないか。

頼む。」


「その程度なら。

でも、おじいさまは忙しいので、いつになるかはわかりませんよ。」


「かまわない。

ありがとう。」


「レックス、ごめんなさい。

そういうつもりじゃなかったの。」


「気にしないで。

よくあることだから。」


ディアッカさんは論文を僕に渡してきた。


「いつでもいい。ウィリアム=ドラクロア様が何かおっしゃったら教えて欲しい。」


「わかりました。」


ディアッカさんは僕に論文について色々教えてくれた。専門的過ぎてわからない話も多かったけど。

ディアッカさんはしゃべり始めると止まらなかった。そして、日没の時間となり、僕らは寮に帰った。




後日、おじいさまに論文をお渡しした。

おじいさまはスラスラと読んでしまった。


「面白い研究だね。

これを書いた研究者は優秀だと思うよ。

でも、このまま実行したら失敗してしまうけどね。」


「おじいさまは異世界についても詳しいのですか?」


「詳しいと言うほどじゃないけど、多少はわかるよ。」


「教えて頂けませんか。」


「あぁ、いいよ。

レックスは異世界のことをどの程度知ってる?」


「異世界が存在する、程度しか知りません。」


「なら、少し説明しようか。」

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