進むべき道

「僕もおじいさまのようになれますか!」


「私とレックスは別の存在だ。

まったく同じにはなれない。

レックスは何を私と同じようになりたいんだい?」


「何が、、、」


具体的に考えたことはなかった。

劣等感で頭がいっぱいで何をどうしたいまで考えていなかった。


「強い戦士になりたい?

優れた魔法使いになりたい?

錬金術師もいいかもしれない。

いや、政治家というのもありだね。

それとも、まずは目の前の学校でヒーローになりたいかな?」


「・・・わかりません。

自分がどうしたいのか、、、

僕には、そんな色々な可能性なんて無いと思っていたから、、、」


「人生には無限の可能性なんて無い。

出来ることをやるだけだ。

だが、出来ることの範囲を自分で狭くする必要は無い。無限では無いけど、人生はレックスが思っているほど悪くはないよ。」


「ありがとうございます。」


「焦る必要はない。

自分の気持ちを整理しなさい。

そして気持ちが決まれば私のところに来なさい。全力でサポートする。

いいかな?」


「考えてみます。」



じっくり考えてみよう。

何がしたいのか。

何が出来るのか。

おじいさまは待っていてくださる。


それからレックスは一族のお年寄りや、古くからおじいさまに仕えている人たちに話を聞いた。

おじいさまが何を考え、何をしたのか。

自分の今後を考える上で役に立つと思ったんだ。


おじいさまの逸話は耳を疑うものばかりだけど、それが事実らしい。

自殺未遂から始まったとは思えない異常な人生だ。

とてもじゃないけどマネ出来ない。

これが限界ってことなんだと思う。


でも『無職』としてどこまで頑張れるかやってみたい。

素直に言ってみようかな。



おじいさまには1週間後に時間をもらった。

おじいさまの部屋をノックする。

「レックスです。」

「どうぞ、入っておいで。」


部屋の中にはおじいさまだけだった。


「レックス、よく来たね。

先週来た時よりも良い顔をしているね。

少しは考えがまとまったかな?」


「はい。

『無職』としてどこまで頑張れるかやってみたいんです。『無職』でどこまで強くなれるのか試してみます。もう逃げたり、誤魔化したりしたくありません。」


「そうか。

それはしんどい道だよ。

いいのかい?」


「覚悟しています。」


「わかった。

じゃあサポートしよう。

しんどくなったらいつでも言っていいんだよ。」


「ありがとうございます。

でも、やってみたいんです。」


「じゃあ、行こうか。」


「えっ!?」


次の瞬間、視界がぼやけた。


そして、次の瞬間、

目の前には国王陛下、父、国の重臣数名。


「お久しぶりです、陛下。」


「久しぶりだね、ウィル。

この登場も久しぶりな気がするよ。」


国王陛下と気さくに話すおじいさま。

展開が早過ぎて頭が追いつかない。


「今日はキーファに用事があってね。」


「父上、私に用なら家でお待ちください。

陛下や皆様がいらっしゃるんですよ。」


こんな慌てた反応をする父は珍しい。


「構わんよ。

ウィルにブレーキをかけることは誰にも出来んからな。

それで、このまま我々が聞いていてもいいのか?

なんならキーファともども席を外してもかまわんが。」


国王陛下がものすごく配慮している。

さすがおじいさま。

噂だけは聞くけど、それだけの力を持っているということなんだと思う。


「いや、聞かれて困る話でもないし。

キーファ、レックスをしばらく預かるよ。

学校の新学期には間に合わんと思うから、学校には上手く言っといてくれ。」


「父上!

レックスに何をされるおつもりですか!?

レックスはまだ子どもですよ!」


「わかってるよ。

ちょっとトレーニングに付き合うだけだよ。

少しでもレックスが自信を持てるようにね。」


「父上のちょっとや少しはアテにならないんです!」


「大丈夫だって。

レックスの背中をそっと押すだけだから。

じゃあ、諸々の連絡はよろしく頼む。」


ウィルはそう言い残して、レックスを連れて転移した。


転移した先は荒涼とした大地だった。

どこ、これ!?


「ここは『見捨てられた地』だよ。」


授業で習ったことがある。

女神様の祝福が与えられず見捨てられてしまった大陸。

行って戻って来た冒険者はいない、とずっと言われていた。

おじいさまだけが上陸して好き勝手をしているのはドラクロア家だけの秘密だ。


「この見捨てられた地はスキルが使用出来ない。つまり、レックスも他の人も条件は同じだ。ここで修行をすれば、既存のスキルに頼らない戦い方を身に付けられると思う。」


「でも見捨てられた地のモンスターは強いんじゃ?」


「その点は心配いらないよ。

私がサポートするからね。」


ニヤリと笑うおじいさま。

不安が膨らむ一方だ。

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