ウィリアム=ドラクロア
ドラクロア家では一族全員で夕食を食べるのが基本になっている。
大きな食堂で全員がお盆を持ち、
おかずを取って回り、
自由な席に座る。
そんな食事スタイルが小さい頃は普通だと思っていた。それがドラクロア家だけだと知ったのも学校に入ってからだ。
そして学校に入った時、ドラクロア家の食事がどれだけ美味しいのかも痛感した。
学校の食事でも、外の世界の基準では豪華になるらしいと知った時はがく然としたものだ。
この食事スタイルはウィリアム=ドラクロア様の趣味らしい。
そして、各家族がコミュニケーションを取って、仲良くすることも目的としているようだ。大人たちはもちろん、子どもたちもみんなワイワイ楽しそうにしている。
僕も学校に行く歳になるまでは楽しかった。
でも今はもう、そんな気分じゃない。
もうすぐ始まる新学期を思うと憂鬱で仕方ない。
「は~」
自ずとため息が漏れる。
「どうしたの~、レックス。
元気ないじゃない?」
「リシャ姉さん。
僕は大丈夫ですよ。」
レックスがニッコリと笑顔を作る。
リシャ姉さんはメル様を祖母に持つ人だ。
僕より3つ歳上で、誰にでも声をかけてくれる、面倒見の良いお姉さんだ。
『伝説の舞姫』という踊りに特化した職業についていて、メル様の再来とも言われている。
「本当に~?」
「嘘じゃないですよ、、、」
リシャ姉さんは僕の心の中を覗き込むように、じっと目を見てくる。
つい目を逸らしてしまう。
「そっか~。
じゃあ、
夕食の後少しだけ時間もらえない?」
「えっ、何するんですか?」
「ひ、み、つ~。
時間はあるんでしょ?」
「そりゃ、まぁ、、、」
「じゃあ食後、少し食堂に残っててよ。
よろしくね~。」
リシャ姉さんは強引に決めて去っていった。
は~、気が重い。
リシャ姉さんはたぶん僕のことを心配してくれているんだと思う。
励まそうとしてくれているんだろう。
でも励ましの言葉は僕には重荷なんだ。
期待に応えたいけど、その能力が僕にはない。
勝手に帰る訳にもいかず、とりあえず待っているとリシャ姉さんがやって来た。
「ごめ~ん。
待たせちゃったね。
じゃあ行こうか。」
颯爽と歩き出すリシャ。
「え、ちょっと、どこに行くの?」
僕はとりあえずついて行く。
「レックスは悩みがあるんでしょ?
でも、どうしようもないことだから、誰にも相談できない~、とか考えてんでしょ。」
見透かしたように言うリシャ姉さん。
「僕の悩みなんて誰も理解出来ないんだよ!」
少し強く言ってしまった。
「理解する必要なんて無いわ。
レックスが本気で悩んでる。
それだけで十分よ。」
リシャ姉さんの言葉は力強い。
でも、どうするつもりなんだ?
到着したのはウィリアム様の部屋だった。
「えっ!?」
僕が驚いているのを無視して、リシャ姉さんはノックをした。
コンコンコン
「リシャです。」
「開いてるよ~。入っといで。」
「失礼します。」
部屋の中にはウィリアム様。
ニコニコと僕らを出迎えてくれた。
「よく来たね。
まぁ座ってよ。」
見た目はおじいさんだけど、動きに無駄はない。既に一線は退いているけど、今も世界最強と言われている。
僕たちに飲み物を出してくれた。
「ホットココアだよ。
まだ夜は冷えるからね~。」
「「いただきます。」」
甘くて温かい。
心がとろけるようだ。
「さてと、リシャ、どうしたんだい?
わざわざ改まって相談なんて。」
「ありがとうございます、おじいさま。
実はレックスがずっと暗い顔して悩んでるの。だから、おじいさまのお力を借りたくて。」
「そうか。
確かに去年からレックスは元気が無かったね。今年も学校から帰ってきた時に表情が暗かったから心配していたんだよ。」
「心配をお掛けして申し訳ございません。
ですが、自分で解決致します。」
僕はペコリと頭を下げる。
「そうか。レックスは強いな。
なら自力で解決するのをサポートしよう。
悩み事の原因は『職業』かい?」
「うっ」
まさか、
こんなに直球で来るとは思わなかった。
「私はね、8歳の時に『フリーター』という職業に絶望して、崖から飛び降りたんだ。」
「えっ!?」
初めて聞いた。
まさかおじいさまにそんな過去があったなんて。
「私は運良く生き残ったけどね。
ただレックスに同じ道は辿って欲しくないんだよ。
私に出来ることがあれば、なんでも言っておくれ。レックスの力になりたいんだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます