力を捨てて

「そんな手をかけた訳じゃないし、困ってもないだろ。

十分楽しめたんじゃないか?」


「楽しんだけど、足りないな~。

本当は魔神が君と相討ちになるのを期待してたのに♪」


「悪趣味だな。

だから私と同程度の実力にしたのか?」


「そうだよ。

その調整も難しかったんだから。

なのに、ほぼ無傷で倒すなんて想定外だよ。」


「戦闘経験の差だよ。

同じスピード、同じパワーでも、どう使うかで全然違うからね。」


「もっと強くしとけば良かったな~。

次は強敵にウィルが挑む、って感じにしようかな♪」


少年が無邪気に笑う。


「次は無いよ。

もうわかってるんだろ?」


「正気なの?

『弱くなる』なんて?」


「もちろん正気だよ。

どれだけ強くなったって、あんたには勝てないんだから。

弱くなって、あんたのターゲットから外れるってのは、悪くない選択肢だと思うよ。」


「考え直さない?

ウィルならほどほどに強い神に成れるよ。」


「そもそも神になるつもりが無いからね。

それに『ほどほど』だろ。

邪神以外の他の神に絡まれても困るし。」


「大丈夫だって。

僕が楽しんでいる世界に手を出す無謀な神なんていないよ。

そもそも僕に勝てる神なんて2人しかいないしね。」


数多の世界の中で3番目の実力者。

そんな存在が次々に敵を生み出してぶつけてくる。そんな状況には耐えられない。

ウィル本人もだし、その影響を受ける人々もたまったもんじゃない。



ウィルは『弱くなる』ことを決めた。

ウィルは力をエルカレナの神域に封印する準備をしていた。

もちろん、いきなり力を封印すると帰れなくなってしまうので、1日後に発動するようにセッティングしている。


なお、ウィルの『弱くなる』はキルアたちと同格ぐらいを基準に考えている。

世界最強クラス、ではある。

しかし、圧倒的に突き抜けた存在ではなくなる。

もちろん、神域への行来も簡単には出来なくなる。


力を神域に封印し、神域に入れなくなれば、元に戻ることは出来なくなる。


弱くなったウィルに邪神が興味を失うだろう、というのがウィルの目論見だ。



「さてと、そろそろ弱くなる為の準備を始めたいんだけど、、、

もう私には用は無いだろ?」


「ふふふ、

本当に予想外のことをしてくれるね。

僕ぐらいになると『予想外』なんて滅多に無いから、新鮮だよ。

とりあえず今日は帰るよ。

また会うこともあると思うよ。

じゃあね。」


「もう会うこともないと思うけど。

じゃあね。」


笑顔で手を振る少年。


もう会いたくは無いけどね。

さっさっと現状回復して、エルカレナを呼ばないとな。


さすがに自宅に女神様を長期滞在させる訳にはいかないからね。


魔神との戦いで傷ついた場所を修復し、用意したけど使わなかった罠等を回収していく。



そして、力を封印する準備を完成させる。

時限式で発動し、ウィルの力の大半を封印する。

同時にウィルを元の世界に送り出す。

そういうシステムだ。


ウィルは魔方陣の上に立つ。

もうすぐ発動する。


女神エルカレナを呼び戻す。


「あら!?」

三角座りのエルカレナが現れた。


「場所をお借りして、すいませんでした。

なんとか魔神は退治することが出来ました。

ある程度は現状回復したつもりですけど。」


「大丈夫よ。

私には十分な時間があるから、ゆっくり片付けるわ。

それよりもその魔方陣は?」


「私の力をここに封印します。

それから、元の世界に戻る予定です。」


「どうしてそんな事を?」


「邪神の興味を削ぐ為です。

突出した力を失えば、邪神も興味を失うでしょう。」


「なるほど、、、

ウィルの考えはわかりました。

あなたの封印した力の管理は私が行いましょう。」


「ありがとうございます。」


「ウィル、

あなたは勇気がある方ですね。

自ら力を失う決断はそうそう出来ることではありません。

あなたの決断に幸あらんことをここより祈っております。」


「ふふふ、ありがとうございます。

女神様から直接祈って頂けるなんて光栄です。

それでは、そろそろ失礼致します。」


「さようなら。」


ウィルの乗る魔方陣が輝き出す。

そして、ウィルの身体中から大量の光の粒が溢れ出す。

光が溢れ、眩しくて、ウィルの姿が見えなくなる。


・・・光がおさまった時にはウィルの姿は無くなっていた。

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