邪神の恐怖

ウィルはウィリアムの街に帰ってきた。


さすがに邪神に会った後、そのまま街に転移するのは怖かったため、いくつかの場所を転々としてから戻った。

おそらく、そんな小細工は無意味なのだが、心を落ち着かせるためにも必要だった。


圧倒的。

その一言に尽きる。

自身の認識の甘さを痛感した。

増長していたのかもしれない。

『勝てない』相手の存在は想定していた。

しかし、『戦いにすらならない』相手を想定していなかった。

おそらく、息をするように自然に、なんの抵抗も出来ずに殺される。そんな相手だった。


対策も思いつかない。

ただ邪神に『殺そう』と思わせない、それしか出来ない。。。

いや、邪神の判断基準がわからない以上、それすらも出来ないのだろう。

不条理の極み。そんな存在だった。



どうにもならないことをウジウジ悩むのは性に合わない。

気持ちを切り替えて、街に戻った。


屋敷ではカシムとソニアが出迎えてくれた。

「アンデッド化を引き起こしていた原因のモンスターは倒したよ。

これで明日以降もアンデッド化の心配は無いよ。」

「何が起きていたのですか?」


「簡単に説明するとね。

『聖者の剣』で大陸中のアンデッドに浄化攻撃を仕掛けたのは知ってるよね。

そこに罠を仕掛けたんだ。

もし、この浄化を防御したら、その位置を特定できるって仕組みを組み込んでおいたんだよ。

アンデッドを大量に生み出す存在だからね。

超広範囲浄化を仕掛けたら、なんらかのリアクションがあると思ったんだよ。」


「そんなことをされていたんですね。」


「そうそう。

その位置を特定するシステムを組み込まずに浄化するだけなら、もっと早く準備出来たんだけどね。」


「十分早いと思いますよ。

簡単に世界規模の魔法をバンバン使える方が問題ですよ。」


「ありがと。

それで、そのアンデッド化の原因となってたモンスターを魔王が守ったから、場所が特定出来たんだ。

で、転移して、倒してきたよ。

まぁ、邪魔が入ったから魔王は倒せなかったけど。」


何気なく話すウィルに対して、

「つまり、ウィル様を止められる存在が介入した、ということですか?」


「カシム、鋭いね。

正直に言うと、見逃してもらった、って感じだよ。

この事は皆には内緒にしといてね。

必要以上に不安を煽りたく無いから。」


「承知致しました。」


「とりあえず、アンデッド化解除の連絡を関係各所に回しといて。

ちょっと行くところがあるから。」


ウィルはカシムに連絡を依頼して、再び転移をした。



ウィルが転移した先は女神エルカレナのところだった。


「いらっしゃると思っていました。」

「ちょっと聞きたいことがあってね。」

「私にお答えできる範囲でなら。」


「ありがとうございます。

『邪神』について知っていることを教えて欲しい。」


「わかりました。

但し、邪神の怒りを買う可能性の高い話は出来ません。

お許しください。」


「もちろんです。

そこまで無茶な期待はしてませんよ。」


「おそらくですが、ウィルの考えで合っていると思います。

大きな括りで言えば、私と同じカテゴリーになります。

ただ、能力には天と地ほどの差がありますが。。。」


「エルカレナよりも、もっと上位の神、って感じなのかな?」


「そうですね。

そう考えて頂いて問題ありません。

邪神は私より遥か上位の存在です。

その考え、判断基準、私の理解が及ぶ存在ではありません。」


「やっぱりか~。

でも、その気になれば、いつでも世界を滅ぼせるのに、何故滅ぼさずに、チマチマ魔王を手伝ったりしていると思う?」


「わかりません。

誰にもわからないでしょう。

ウィルなりに考えるしかないですよ。

その考えが合っているかどうかは誰にもわかりませんが。。。」


「やっぱ、そうだよね~。

ちなみにだけど、エルカレナって私が何を考えているのかわかるの?」


「全然わかりませんよ。

持っている力は私とウィルでは、ほとんど差がありませんから。

私が無理矢理探ろうとして、かつ、ウィルが防御しなければ、わかりますよ。」


「なるほどね。

まぁ、いいか。

今後どうするか考えてみます。

ある意味、天災の象徴のような存在だね。」


「お手伝いできることはありませんが、ウィルに幸運があることを心よりお祈り致します。」


「ありがとうございます。

それじゃ、帰ります。」


ウィルはエルカレナのもとを後にした。

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