それぞれの戦い ダッカ

カンロ王国にあるジョウエ砦。


カンロ王国騎士団の団長を務めるダッカは決断を迫られていた。


ノロイの襲撃を受け、国王はダッカを派遣した。

ダッカは金鷹傭兵団の元団長であり、先のドルマ帝国との戦いにも活躍した男だ。

ブルーノ国王の信頼もあつい。

ダッカは当初は優勢に戦いを進めていた。


しかし、ノロイの数がどんどん増えてきた。

大型ノロイは中型ノロイを生み出し、中型ノロイは小型ノロイを生み出す。

ねずみ算式に増えていく。しかも、アンデッド化するので簡単に倒せない。

一方、カンロ王国軍は死人が出ればアンデッドになり敵に回ってしまう。


どんどん窮地に立たされてきた。

撤退か。

籠城か。

勝てる見込みは薄い。

早く逃げなければ退路も絶たれてしまう。

しかし、ジョウエ砦を放棄すれば周辺の都市を守るすべは無い。

街の住民が避難する時間を稼がなければならない。それが出来なければ周辺の都市の住民がアンデッドとなってしまう。国中がアンデッドで溢れてしまう。


(そろそろ潮時だな。これ以上は待てん。包囲を突破するのも簡単ではないからな。)


「団長、客人です。」

部下が報告に来た。


「客人?」

既に砦はノロイに包囲されている。

客人が来られるはずがない。


「ウィリアム=ドラクロア様の使者です。」

「あぁ、あの方の使者なら来られるのだろうな。すぐに会う。」



飄々とした男が待っていた。

「指揮官のダッカだ。」

「はじめまして、ハンスと申します。救援に参りました。」

「助かる!

救援の部隊は何日後に来られるんだ?」

「残念ながら、救援は俺1人だ。」

「なっ!?」


「まぁ、普通はそうなるよな。」

「失礼した。だが、どれだけ強くても1人で出来ることには限りがあるだろう。」

「おっしゃる通り。

俺はただのアイテムの運搬役だよ。戦力としてはアテにしないでくれ。

で、どれぐらいの時間があれば出撃の準備が出来る?」


「30分もあれば十分だ。」

「それなら30分後に反攻作戦といきましょうか。」

「脱出作戦ではなく、反攻作戦なのか。」

「ここで踏ん張らないとカンロ国内が大変なことになるだろ。

特に大型ノロイを減らしとかないと増え方が半端ないからな。」

「そんなことが可能なのか?」

「それを可能にするために来たんだ。」

「わかった。準備を進めよう。」



30分後。

「団長、本当にあの男のことを信じるんですか?」

「あぁ、あのウィリアム様だからな。

さて、そろそろだな。

合図を送ると言っていたが。」


その時、

ドン、ドン、ドン、ドン

轟音が響く。

ハンスが砦から四方に『デスハウリング』を大量に撃ち出した。

マジックアイテムを広範囲に撃ち出すロケットランチャーのような魔道具だ。


『デスハウリング』で広範囲のノロイを葬る。


「まだまだこれからだぜ♪」


続いて、『ホーリーゾーン』という範囲浄化アイテムを撃ち出す。持続時間もほどほどだ。


「これだけで終わりゃ楽なんだが、そうもいかないよな~。」


続けて花火を撃ち上げる。

これが開戦の合図だ。


全軍が突撃を開始。


「さ~て、俺も行きますか。」


ハンスは突出した。

小型はほぼ無視。

スルスルとすり抜けながら、大型と中型のノロイを倒すことに専念した。


ダッカはそのハンスの動きを見て、

「どこにあんな戦える運搬役がいるんだ。

最強クラスじゃないか!」


ハンスは大型ノロイの股下をスライディングですり抜け、背後から斬りつける。斬りながら大型ノロイの背中を駆け上がり、頭上に立った。

剣を突き刺しながら、次の獲物を探す。

「雑魚の集まりなら俺でも活躍できるな。」


大型ノロイは遠くからでも見える。

それが次々と倒れていく様は兵士たちを鼓舞した。


この戦いでの活躍で、カンロ王国では『神速のハンス』と呼ばれるようになる。


しかし、、、

その武名がウィリアムの街まで届くことはなく、ハンスの婚活にはなんの影響もなかったという。。。


なお、戦いはカンロ王国軍が勝利をおさめた。

これにより一時的ではあるが、カンロ王国内でのノロイの恐怖は去った。

大群になる前に大型や中型を倒す。

それを徹底するしか対策はない。

小規模の部隊を四方に派遣し、早めの対策を打つことになった。

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