それぞれの戦い フルブライト卿
「戦の準備は進んでいるか?」
「滞りなく進んでいます。」
フルブライト卿が息子のロナルドに尋ねた。
「しかし、かなり厳しい戦いになりそうですね。」
「そうだな。討伐に向かったデカイド伯爵の軍は壊滅。アンデッドになって敵に加わっているようだ。」
「こちらも周辺の貴族たちをまとめて兵士の数は揃えましたが、所詮数会わせ。それほど期待はできないでしょう。」
「下手をすれば、早期に崩れて、こちらまで巻き込まれる。」
「味方が死ねば敵に早変わり。嫌な戦場ですよ。士気を維持するのが難しいでしょうね。」
「だが、弱音ばかりも言ってられん。
ここで勝たねばノロイに飲み込まれる町が大量に出てしまう。」
そこに兵士が駆け込んできた。
「失礼致します。」
「どうした。」
「ウィリアム=ドラクロア卿からの使者が参りました。お会いになられますか?」
「当然だ!何よりも優先せよ!」
「父上?」
「フフフ、どうやら女神様は我々の味方のようだ。」
「まだわかりませんよ。」
「何を言っている。このタイミングにウィルが使者を寄越したのだ。無意味なはずが無いだろう。」
そんな話をしながら、フルブライト親子は使者のもとへ急いだ。
そこにいたのは、2人組の男女。
「お初にお目にかかります。メル=デリアンと申します。こちらは護衛のドニさんです。」
「ほう、あのデリアン姉妹か。宜しく頼むよ。」
「フルブライト卿、えっと、あの~、何から話せばいいのかな~。」
見かねたドニが助け船を出す。
「メルは広範囲の浄化が出来る。今度の戦いでは大きな力になるだろうとウィル様が派遣された。護衛は俺がやるから心配しなくて大丈夫だ。
・・・貴族様と話すのは慣れていない。失礼があると思うが許して欲しい。」
「言葉使いなど気にせんでいい。
私とウィルの仲だ。
それよりも、どの程度の範囲を浄化できるんだ?」
「私の歌声が届く範囲なら大丈夫です。」
「メルは最前線中央に位置する。そうすれば前線はだいたいカバーできるだろう。俺が護衛するから、護衛に人をさく必要は無い。」
メルとドニが答えた。
「ちなみにドニさんの強さはどれぐらいですか?」
「レベル30程度の相手なら何人が一斉に来ても負けはしない。」
レベル30と言えば一般には一流、エース、などと呼ばれるレベルである。
ウィリアムの街が異常なだけである。
「さすがです。ウィリアム卿の援助に感謝致します。」
そして、戦いへ。
「アンデッドの恐怖は排除できた。
後は化け物どもを退治するだけだ。
この戦い、勝機は見えている。
勝ちに行くぞ!
進め!!」
フルブライト卿の指揮のもと、全軍が前進していく。
ぶつかる直前、メルの『鎮魂歌』が戦場に響き渡った。
モンスター軍団を構成していたアンデッドたちは、たちまち浄化されていく。
急激に密度が薄くなるモンスター軍団。
最初の激突はフルブライト卿優勢で進んだ。
「報告します!
アンデッドたちは全て消滅!
敵軍の1/3が消滅です!」
「さすがウィルの部下だ。最高の仕事をしてくれる!
このまま押しきるぞ。」
そのまま戦いはフルブライト卿優勢で進んでいたが徐々に勢いを失ってきた。
「何が起きている?」
「大型のノロイに苦戦しているようです。」
「大型のノロイ?」
「戦場で小型、中型、大型の3タイプが確認されています。
小型は数は多いですが弱い。一般兵でも簡単に倒せます。
中型は数は少ないですが強く、一般兵では囲んで対処しなければ戦えません。
大型は更に少ないですが非常に強く、精鋭でなければ戦えません。
現在、小型が減り、中型や大型が前に出てきたため、寄せ集めの中小貴族部隊が混乱しています。」
「援護せよ。
数が無ければ小型ノロイを抑えきれん。
中央の部隊を回せ!」
「それでは中央が手薄になるのでは?」
「構わん。我々が前に出て埋める。」
「はっ!承知致しました。」
フルブライト卿は内心では、
(ウィルの部下がいる。兵士が少ない方が暴れられるだろう。)
と目論んでいた。
そして、その目論見は的中した。
「フン!」
ドニの斧が大型ノロイを両断する。
「ハッ!」
両手に斧を持ったドニが竜巻のように回転しながら、駆け回る。
その軌道にいたノロイたちは瞬く間に斬られていく。
「凄まじい強さだ!我々も負けてはおれんぞ!」
「無理に大型ノロイを倒そうとするな!
隊列を維持せよ!
隊列を組めばそうそう簡単に突破はされないぞ!」
フルブライト卿とロナルドが指揮を取る。
派手さは無いが堅実な動き。
それがフルブライト親子の持ち味だ。
「そろそろいくよ。『リミックス、鎮魂歌、英雄の歌』。」
『リミックス』。2つの歌スキルを同時に使える、メルの奥の手だ。
長時間は使えないため、タイミングを狙っていた。
もちろん、メルに戦局を見る目など無い。
ドニの指示だ。
一気に兵士たちの能力が底上げされる。
攻撃の勢いが加速する。
そして、フルブライト親子の優勢は確実なものとなった。
「今の間に数を減らせ!」
「勝利の時は近いぞ!」
そして、そのまま戦いは決した。
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