幕間 魔王の希望

「どうする・・・

三連鬼将がこうも簡単に倒されるとは。」


魔王ダースダルダムのもとに三連鬼将が倒されたとの報告が入った。

想定外だった。

バラバラの場所にいる3人を同時に倒すのは至難の技だ。

そもそも同時に倒さないと倒せないと気付くのにも時間がかかる。


「なのに何故・・・、早過ぎる。」

魔王ダースダルダムは1人頭を抱えていた。


「お困りのようだね。」

突然、声をかけられる。

周囲を見回すと、少年が歩み寄っていた。


「誰だ!」

誰何の声をあげるが、魔王は本能的に『勝てない相手』と認識していた。


「みんなからは『邪神』と呼ばれているね。」

「邪神、、、どうして、そんな存在が?」

「君が困っているようだから助けに来たんだよ。」

「私を、、、助ける?」

「その通り。」


邪神がニヤリと笑う。

中性的な整った顔。

無邪気にしか見えない。


「魔王と勇者のバランスが悪過ぎる。

一言で言えば、君が弱過ぎて、このままだと何も出来ないまま、勇者に倒されてしまう。」

「くっ。」

言われている内容はひどい侮辱だが、邪神の圧倒的な存在感に魔王は何も言えない。


「別に君が悪い訳ではないよ。

ちょっとしたハプニングがあったからね。」

「ハプニング?」

「それは君が知る必要の無いことだよ。」


ニコニコとしているが有無を言わさぬ圧力がある。


「さてと、君を助けてあげるんだけど、これを見て。」


邪神が小さな玉を出した。

「これはね、『魔神の卵』だよ。」

「魔神の卵?」

「そう。この卵からは魔神が産まれる。それを君の力として使っていいんだよ。」

「魔神の力を使える、、、本当か?」

「もちろん。ただし、そんなに簡単なことじゃない。いくつかの段取りが必要だ。」

「どうすればいい?」


「まず、産まれたての魔神は弱い。

ただのスライムと変わらないぐらいの力しかない。」

「そんな、、、」

「でもね。」

再び、邪神がニヤリと笑う。

「成長速度と成長の上限が限りなく高いんだよ。

最初は弱いがすぐに強くなり、そして際限なく強くなっていく。

やがて『魔神』の名に相応しい力を持つようになるんだ。」


「その力が私のものに!」

「そう、経験値を貯めていけば、いずれ強い力を手に入れられる。

そこで、僕から3つのサービスをしてあげよう。

まずは、」


そう言いながら邪神は『魔神の卵』に力を注ぐ。

『魔神の卵』に複雑な紋様が浮かび上がる。


「これでよし♪

この大陸及びその周辺で誰かが経験値を得る時に、ごくわずかに掠めとる術式を施したよ。

これで勝手に経験値がガッポガッポ貯まっていくよ。」

「そんなことができるのか?」


「『邪神』だよ。それぐらいはね。

ただし、ダンジョン内部は除外されるけどね。

それでも十分でしょ。

さぁ、これを飲み込んで。」

「飲み込むのか?」

「そうだよ。体内で産まれるのを待つんだよ。」

「しかし、、、飲み込むのは、」


悩む魔王に対して、邪神は消えたかと思うと、次の瞬間、魔王の目の前に立ち、魔王のお腹に直接押し込んだ。


「なっ!?」

魔神の卵はそのまま魔王のお腹に入っていった。


「悩んでる場合じゃないでしょ。

勝ち目が無いんだから。

さっさと次にいくよ。

アンデッド系のモンスターを産み出して。

能力はなんでもいいよ。」

「わかった。」


魔王は言われるがままにスケルトンを産み出した。

「これで良いか?」

「十分だよ。」


邪神はスケルトンの頭を掴み、力を注ぐ。

怪しい光が包み込み、スケルトンが変容していく。

光がおさまるとスケルトンの衣装が変わり、眼窩には怪しい光が宿っていた。


「これでいいかな。

このスケルトンを『スケルトンメーカー』と呼ぼう。うん、うん。」

満足げに頷く邪神。


「何が変わったんだ?」

疑問を投げかける魔王。


「このスケルトンメーカーがいる限り、大陸中の死んだモンスターや人間はアンデッドになる。それも、何度もね。

最初はゾンビ、それがスケルトンやゴーストなんかになっていく。

戦闘回数は爆発的に増えるよ。

人間たちは混乱するし、戦えば戦うほど、魔神の経験値になる。

一石二鳥だね。」

「そんな凄まじい力がこのスケルトンにあるのか!?」


「そうだよ。

その代わり、直接戦闘能力は皆無。

ただし、救済措置として転移能力を与えてある。周辺の護衛が殺られたら、さっさと転移で逃げられる。

コイツさえ消滅させられなければ、アンデッドパニックは続くからね。」


「素晴らしい!」


「でしょ♪

最後のサービスは深海に封印された古代のモンスター『ノロイ』を復活してあげる。」

「ノロイ?」

「知らないのも無理はないよ。

かつての魔王が負けを覚悟し、命と引き換えに産み出した魔獣だよ。」

「命と引き換えに・・・」


『魔王の命と引き換え』、それだけで強大な魔獣か想像できる。


「魔獣ノロイの特徴は大量の手下を生み出すことなんだ。凄まじいスピードで増えるよ。そして、そのノロイの手下を倒せば倒すほど魔神の卵に経験値が集まる。しかも一度倒してもスケルトンメーカーの影響で何度もアンデッドとして蘇る。

そして、それもまた魔神の卵の経験値になっていく。

フフフ、想像しただけで面白そうでしょ。」


楽しそうに笑う邪神。

その笑顔には魔王ですら恐怖を感じてしまう狂気があった。


「さぁ、どうなるか一緒に楽しもうじゃないか。」

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