幕間 ゲオルグのお仕事

「ゲオルグいる~?」

「あぁ、何か用か?」


ここは未踏破ダンジョン『地獄』最深部。

いつも通りゲオルグが修行に励んでいた。


「ちょっと頼みたいことがあってさ。」

「なんだ?」

「まずはこれを見てよ。」


ウィルは英雄の槍と鎧を出す。

「これは、、、大したことない装備だな。」

「ゲオルグから見たらそうだろうね。

でも一般兵からすると凄く能力アップできる装備なんだよ。

しかも量産も簡単にできる。」

「なるほど、一般兵には有効かもしれんが、わざわざ俺に見せに来たのは理由があるんだろ?」


「その通り。

話が早くて助かるよ。

この装備には裏があってね。

装備すると解除できないし、魔族の命令に従ってしまうんだ。

だから、魔王の部下が原料と作り方をドルマ帝国に教えたようなんだ。」


「回りくどいやり口だな。

いつの時代にも、そういう策略を好む輩はいるものなんだな。」


「確かにね。

でもドルマ帝国の野心に火をつけて、人間同士の争いを拡大させるのに成功したから、ある意味、作戦は成功しているよね。」


「だがウィルが阻止したんだろ?」

「直接ではないけどね。

でも脅威ではあるんだよ。

だから、この装備の危険性を広めたいと思って、ゲオルグに頼みに来たのさ。」


「装備した連中に何か指示を与えればいいのか?」

「その通り♪

今帝国では新たに装備を2000個用意したらしい。

これをもっと用意して、戦争を仕掛けるつもりのようなんだ。

今は装備者2000人が帝国のオルデッカダンジョンでレベル上げをしている。

ゲオルグにはそこに行って、帝都を襲うように指示をしてほしいんだ。」


オルデッカの街は帝都から一番近いダンジョンを抱える街だ。

帝国の兵士育成でもよく使われる。


「運んでくれるなら受けよう。

さすがにそんなところまで移動するのは時間の無駄だからな。」

「もちろん。今日の夜に決行するから宜しくね。」



その日の夜。

ダンジョンでの訓練を終えた兵士たちはそれぞれのテントにいた。

さすがに2000人が一斉に街に泊まる訳にもいかず、ダンジョンの側でテントを張っていた。

帝国軍が大規模な訓練を行う場合、いつも同じようにしている。

そんなテント群に突如声が響いた。


『我が命令に従え。』

『帝都を襲撃し、皇帝の居城を破壊せよ。』


「これでいいのか?」

「バッチリ♪」

「では、帰らせてもらおう。」

「了解。お疲れ様でした。」


ウィルとゲオルグの姿が闇に消える。



そこからパニックが始まった。

テントにいたのは英雄装備の者だけではない。

一般の兵士は謎の声に困惑し、また、急に動き出した英雄部隊にも困惑した。

そして、英雄部隊に声をかけた者は一突きで命を奪われた。


そして最悪の事態が進行していることに気がついた。

英雄部隊を止めようとする者。

事態を報告しようと帝都に駆け出す者。

ただただ逃げ出す者。


止めようとした者は皆、命を散らした。

帝都に駆けた者のおかげで英雄部隊が到着する前に最低限の情報はもたらされ、防衛の準備が行われた。


なお、報告に走っていた者を、ウィルが何名か捕まえ、『英雄装備は魔族の命令に従ってしまう』という情報を密かに入れ込んだのは誰にも知られていない。


そして、朝。

城門前で戦闘が始まった。

帝都には10000人程度の兵士がいた。

城門を固め迎え撃った。

しかし、帝都にいる兵士は実戦経験が不足していた。

帝都配属の兵士の多くは貴族の跡を継げない次男や三男で構成されていた。

兵士にはなるが激戦区の国境付近ではなく帝都配属になり、警備などを行っていた。


そんな惰弱な兵士が能力が上がって、ゲオルグの命令に猛進する英雄部隊を止められるはずがない。

英雄部隊には攻城戦用の装備などはないが、能力の高さ、死を恐れぬ突撃で城門をあっさりと突破してしまった。


そして戦場は王城に移った。

一般兵に加え、近衛兵も参戦した。

近衛兵は精鋭である。

英雄部隊とも戦える実力はあるが、人数が少なかった。

英雄部隊は数を減らしながらも続々と王城に雪崩れ込んだ。


そして与えられた命令は王城の破壊。

破壊を邪魔する者とは戦うが、メインは王城の破壊であった。

そのため、皇帝はなんとか隠し通路から城外に脱出することができた。


しかし、王城は倒壊した。

英雄部隊が柱を次から次に破壊していき、自重で倒壊した。

そして命令を完遂し、呆然としていた英雄部隊は次々に処断された。


結果として、

王城の倒壊。

英雄部隊の全滅。

帝都配属兵士が半減。

近衛兵も半減。

官吏も多数死亡。

皇帝が逃げ出したという事実。

英雄装備が魔王の謀略だったという情報。


ドルマ帝国には非常に大きな損害が出た。

国の存亡に関わるレベルである。

ドルマ帝国としても体制の立て直しに集中せざるを得ない状況となった。

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