本選 その1

「さぁ、第一試合はギグス選手対ディーン選手です。

ギグス選手は予選を突破した実力者です。その洗練された身のこなしは印象的でした。

ウィリアム騎士団の一番隊隊長を務めています。

対するディーン選手は昨日の予選の解説をして頂きました。ウィリアムの街の警備隊隊長としても有名です。そして武術大会の初代王者でもあります。その実力は折り紙つきです。

ウィリアムの街を代表する戦力、騎士団と警備隊。その代表が激突します。

さぁ、両者入場です。」


特設リングの中心にギグスとディーン。

審判のウィルが集まる。

「よろしく頼む。」

「こちらこそ、宜しくお願い致します。

一回戦の相手がディーン様で良かったです。警備隊隊長のディーン様が本選シードで騎士団は予選から。

騎士団員としては思うところはありますよ。」

「なるほどな。理解はできる。だがこちらとしても負けてやる訳にはいかん。警備隊は冒険者たちになめられると終わりなんでな。強いところを見せんといかんのでな。」


両者が睨み合う。

「はじめ!」ウィルの掛け声が飛ぶ。

熾烈な打ち合い。

両者一歩も退かない。

ハイスピードの攻防に観覧席からは歓声が起こる。


「初戦から凄まじい攻防!

この戦い互角でしょうか?」

「どちらも経験豊富、実力十分の選手です。簡単には崩れないでしょう。ベテラン同士の駆け引きが見ものですね。」

「この戦いは長引きそうですね。どちらも非常に安定しています。」


「さすがです。隙がない。」

「褒めても何も出ないぞ。」

「素直な感想です。」

「感想は負けてから言ってくれ。」

「それだと言うタイミングが無いですね。」

「言ってくれる。」


会場全体が長期戦を予想する中、突然腕が宙を舞った。

「なっ!?」

斬り飛ばされたのはディーンの左腕。

だが、驚きの声を洩らしたのはディーンではなくギグスだった。

次の瞬間、ディーンとギグスは絡まるように転倒。ギグスは仰向けに倒れ、その上にディーン。さしてギグスの首にはショートソードが押し当てられていた。


「・・・参りました。」

「勝者、ディーン!」

ウィルの判定の声が響く。

あまりの急展開に観覧席もついていけない。


ウィルがディーンの左腕を拾い、ディーンの体に引っ付ける。

切断面が淡い光に包まれる。

「とりあえずの措置だから、右手で腕を支えながら歩いてね。後でちゃんと治療を受けといてよ。」

「もちろんだ。」


「最後の展開はなんだったのでしょうか?」

「あれはディーン選手が左腕を囮にしたみたいだね。」

「囮、ですか?」

「そう。普通なら戦いの序盤、しかも不利な展開だった訳ではない、そんなタイミングにやる戦法ではないですが、裏をかいていきなりハイリスクハイリターンの作戦に出たのでしょう。

一番驚いたのはギグス選手だと思います。普通なら防がれる攻撃を防ぎもせずに突っ込んで来たんですから。その隙をディーン選手が逃さず勝負を決めた訳ですね。」


ディーンに握手を求めるギグス。

「完敗です。あれほど豪胆な作戦は思いついても実行できません。」

「俺だって腕を斬られたくはねえよ。ギグスが強かったから仕方なくやっただけだ。」

「ご謙遜を。普通に戦っても勝つ自信はお有りでしょう。」

「どうかな。まぁ負けずに済んで良かったよ。」

「また胸を貸してください。」

「勘弁してくれ。」手をパタパタしながら退場していくディーン。


「素晴らしい試合でした。観覧席からも惜しみない拍手が送られています。

この後、リングの整備を行い、二回戦となります。二回戦はキルア選手とキース選手です。どちらもシード枠の選手です。

選手情報を紹介致します。

キルア選手はあの未踏破ダンジョン『帰らずの回廊』のダンジョンマスターです。

そう!つまり帰らずの回廊をクリアしているのです。それだけで推薦された理由がわかるでしょう。

対するキース選手ですが、既にレベル80を突破している凄腕の剣士です。そうレベル80超えです。トップクラスの冒険者がレベル40ぐらいということを考えると、その凄さがわかるでしょうか。」

「ダンジョンマスターとレベル80超えの戦い。歴史的な一戦になりそうですね。」

「さぁ、両者入場して参りました。

おや?キルア選手はタキシードのような格好で武器も見あたりません。あの格好で戦うつもりでしょうか?」

「相手はダンジョンマスターです。我々の常識は通用しないのかもしれません。」

「そうですね。伝説的な存在ですからね。何があっても不思議ではありません。

さぁ、そろそろ試合が始まりそうです。」

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