幕間 ザライド枢機卿の憂うつ
魔人事件が解決し、ウィルが去った後。
ザライド枢機卿の部屋にキャナルとマッシュが訪ねてきた。
「マッシュさん、ようこそ。今日はどういったご用件ですかな?」
「お忙しいところお時間を頂戴致しまして、有難うございます。こちらは私の上司のキャナルです。」
「初めましてザライド枢機卿。お目にかかれて光栄です。」
「あのウィリアム=ドラクロアの関係者ならいつでも歓迎だ。」
「今日はウィリアム様とは直接の関係はございません。ただの商売の話です。」
「商売?どういった内容かな?」
「ウラドラ商会をご存知ですか?」
「もちろん知っている。新進気鋭で異常な急成長をしている商会だろ。」
「存じて頂き有難うございます。私はウィリアム様よりウラドラ商会を任されております。」
「ならウラドラ商会のオーナーはウィリアム殿ということか。」
「ご名答です。ウィリアム様がオーナーをされていらっしゃいのは機密事項です。ご内密に。」
「ふ~、ウィリアム殿の力はそんなところにまで及んでいるとはな。」
諦めにも似たため息をつくザライド枢機卿。
「それでどんな用件かな?」
「リンカさんの移動に賛成して頂きたい。」
「リンカが大聖堂を出ようとしているという噂は本当だったのか。」
「祈り子の役目を離れましたが、『元祈り子の聖女』というのはネームバリューが強過ぎます。現在は教皇派が囲んでいます。ですがそれはウィリアム様の望みに反します。」
「ウィリアム様の望み、か。」
「はい、もちろん女神様が祈り子の制度を廃止した目的とも反するでしょう。」
「フッ、女神様よりもウィリアム殿を優先されるのですな。」
「教会の方には不愉快かもしれませんね。申し訳ございません。ですが、祈り子の名前と自由を取り返す為に女神様に会いに行かれるのはウィリアム様ぐらいでしょう。私にとっては信仰に近いぐらいの敬愛の対象です。そして、ウィリアム様が女神様に掛け合って得た自由を他人が奪うなどあってはならない。」
「あなた方の動きはウィリアム殿はご存知なのかな?」
「まだウィリアム様はリンカさんが教皇に軟禁状態にされていることを知りません。もしウィリアム様が知れば、教皇と対立することも厭わないでしょう。そうなる前に手を打ちたいのです。」
「なるほど。確かに彼なら教皇といえど恐れることはないだろうな。それでどうするつもりなんだ?」
「リンカさんの家出を手引きします。
所詮はただの少女しかも、ものものしい監視をしているのは体裁が悪い。というのが透けて見える警備態勢です。少しの手助けで脱出できるでしょう。」
「それなら君たちだけでできるだろう。私に何をさせたいんだ?」
「リンカさんがその後隠れて暮らすというようなことはあってはならない。堂々と外の世界で生活できるように承認を得てもらいたい。」
「難しいな。教皇を説得できるだけの材料が無ければ、すぐに追跡を神殿騎士団に命じるだろうな。」
「マイケル枢機卿が人身売買に関わっている証拠があります。リンカさんの脱出後、すぐにこの情報を教会内部に拡散します。その混乱の間にリンカさんを脱出させ、直筆の書状を用意します。内容は『女神様より自由を頂いたが教皇に軟禁された。』です。」
「教会を潰す気か!?」
「潰すつもりならザライド枢機卿にこのような話を致しません。
この書状を公開しないことを条件にリンカさんのウィリアムの街への移住を許可して頂きたいと考えています。その橋渡し役をお願いしたく、ご相談致しました。」
「無茶苦茶だな。君たちを止める方法は無いのか。」
「我々が動く前にリンカさんの移住許可が頂ければ何も問題ございませんが。」
「ふ~、わかった。協力しよう。だが見返りはもらいたい。」
「御英断有難うございます。見返りはウラドラ商会のバックアップです。ザライド枢機卿がウィリアム様のご意志に反する行いをしない限り、応援致します。もちろん教会内部のことに基本的には口出し致しません。」
「悪魔に魂を売った気分だよ。」
「ウィリアム様は協力してくださる方に損はさせませんよ。」
多少の打合せをしてキャナルとマッシュは去っていった。
その後、入ってきたジェファーソン司教は、
「どうされたのですか?お疲れのご様子ですが?」
「ウラドラ商会と協力していくことになった。」
「それは良かったではないですか。今一番勢いのある商会ですよ。」
「そんなことは知っている。敵には絶対に回せないが、味方にしても恐ろしく厄介な連中だ。もう逃げられんな。。。」
「それほどなのですか?」
「これから教会内部に嵐がおこる。私は不本意ながら勝者になる。不本意ながら、な。」
ザライド枢機卿は遠くを眺めながらため息をついた。
ザライド枢機卿の予想は当たる。
教皇は力を失い、枢機院ではザライド枢機卿の発言力が非常に強くなった。
ついでに聖女リンカが移り住んだことにより、ウィリアムの街は更に影響力を高めることになった。
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