強襲

ある日の午後。

アデードのドラクロア邸では穏やかな時間が過ぎていた。

オデロ、エリック、アルガスは王都に出ていた。

孫のクルツを可愛がるマリアンヌ。

ローザリアも一緒だ。

「クルツはかわいいわね。将来は間違いなくイケメンね。」

「エリック様に似て目鼻立ちがハッキリしてますから。」

「エリックとローザリア両方の良いところを引き継いでいるわね。」


そんな話をしていると、

ドオオオォォォォォンンン!!

轟音が響く。

ローザリアはクルツを咄嗟に抱きしめ、マリアンヌと目を合わせる。

「何事かしら?」

2人に緊張が走る。

執事のバルデスが駆け込んで来た。

「ご無事ですか?」

「私たちは大丈夫よ。何があったの?」

「敵襲です。相手は不明です。」

「戦えない者はここに集めなさい。」

「承知しました。」


屋敷の中では激しい戦闘音が鳴り続けている。そんな中、続々とメイドなどの非戦闘員が集まってくる。

ガラリアは大斧を担いでやって来た。

メイド長のカリーナが、

「全員こちらに避難致しました。」

「皆、ここは安全です。騎士たちが制圧するまでここで待ちなさい。」

マリアンヌが皆を落ち着かせる。


「マリアンヌ様、どうやら相手はモンスターのようです。」

バルデスが小声で報告する。

マリアンヌも表情を変えず小さな声で、

「戦況は?」

「厳しいです。」

「突破することは可能ですか?」

「数名は生き残れるかと。しかし外に敵がいない保証はございません。」

「生き残れる方法は?」

「兵舎に伝令を走らせています。援軍が来るまで耐えられれば。」

「そう。」


屋敷では至るところで戦う音が鳴っている。それとは対照的に部屋は静寂に包まれていた。誰もが不安そうな顔をしている。


バルデスが剣を持ち部屋の入口に仁王立ちする。

「ご安心ください。皆様には指一本触れさせません。」

バルデスが優しく微笑む。


「では、お供しましょう。私は守られるよりも斧を振り回している方が落ち着きますので。」

ガラリアがバルデスの横に並び立つ。


「カリーナ、クルツをお願い。学生時代に戻って久しぶりに暴れようかしら。」

ローザリアもバルデスの横に立つ。


「うちの子たちは良い妻を選んだわ。女性を視る目は確かだったみたいね。」

嬉しそうに微笑みながらマリアンヌも杖を取り出す。

「急造パーティーにしてはバランスが良さそうね。」


そしてナニかが駆けてくる足音がする。

急接近するナニかに躊躇なく、ガラリアが斧を振り下ろす。

激突!

両者が後ろに飛ぶ。

すかさずバルデスとローザリアが追撃をかける。ローザリアの攻撃を防ぐもバルデスの一撃がヒットする。

「硬い!」

思わずバルデスの口から洩れる。


敵は人間に近いモンスター。

ボサボサの髪の毛に狼のように突き出した口。腕は大きく隆起し、鱗のようなもので覆われている。ぼろぼろに破れた服を着て、足は何も履いていない。太くて大きな足はやはり鱗のようなもので覆われている。


スピードのローザリア、パワーのガラリア、そのバランスを取るバルデス。そして後方からマリアンヌが回復魔法を飛ばす。両者ともに決定打を欠き、削りあう状況。回復支援のあるバルデスたちが優勢に進めていた。


そんな時、

モンスターが仕掛けた。

ダメージを厭わず強引に突破。

回復役のマリアンヌを目掛けて飛び込んできた。マリアンヌは逃げられないと悟ると、逆にモンスターの方に踏み出した。

「ドラクロアの女をナメるな!!」

マリアンヌに噛みつこうと迫りくる口に左手を突っ込む!

刹那、マリアンヌが左手に握っていた杖から炎がほとばしる。

モンスターは仰け反りながらも、マリアンヌにむけて腕を振るう。

バルデスが身を呈して守る。

その隙にローザリアのショートソードが目に、ガラリアの斧が腰にクリーンヒットする。

モンスターはもんどりうって倒れる。

そこに更に追撃をかける。

ローザリアはガラリアがつけたキズに再び剣を突き刺す。モンスターが苦しみながら暴れる。

「じっとしてなさい!」

トドメの一撃をガラリアが放つ。

ようやくモンスターが動かなくなる。


「お義母様!バルデス!」

ローザリアとガラリアが駆け寄る。

マリアンヌの左手が赤黒く焼けただれている。

バルデスは背中にバッサリと切り裂かれていた。

2人に回復薬を使う。

「なかなか厄介な相手だったわね。」

マリアンヌが脂汗を垂らしながら口にする。

バルデスはうつ伏せに荒い息をしながら倒れこんでいる。傷口をメイドの1人が押さえている。

辛勝を代償は大きかった。

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