幕間 アルガス隊は今日も戦う

「気合を入れろ!弛い訓練など何の意味も無いぞ!」

訓練中の騎士たちにアルガスの檄が飛ぶ。


そして訓練後、

「今日のアルガス様は激しかったな。」

「あれが毎日続くと体がもたないぞ。」

「今だけだろ。エリック様はフィガロで大きな功績を上げられ、しかもウィリアム様の同行が決まったから自身は外されたらしい。心中穏やかじゃないだろう。」

「それだけじゃない。憂さ晴らしにウィリアムの街で開催された武道会に出場したらしいんだが、4位になったらしい。」

「さすがアルガス様だな。」

「いやいや、本人は優勝してやろうと思って参加して、4位だからな。かなり不本意だろう。」

「なるほどな。そういう鬱憤が溜まってのしごきか。八つ当たりは勘弁して欲しいな。」

「しかし、あのアルガス様が4位とはな。相当レベルの高い大会だな。」

「知らんのか。ウィリアムの武道会と言えば王国一と評判だぞ。この前の大会でも冒険者の街バルベンから参加した連中が全員予選敗退したらしい。」

「なるほどな。普通ならアルガス様の成績は誇っていいものだと思うけどな。」

「あの方はハイスペックだからな。目標も高くなってしまうんだろう。」

「ドラクロア家の次男で新たに男爵になれることも決まっている。普通なら順風満帆な人生なんだけどな~。」

「比べる相手が悪いんだよ。エリック様は非の打ち所の無い方だし、ウィリアム様も既に偉業を成し遂げている。そのお2人と同じ時期に産まれなければ、ドラクロア家の麒麟児として持て囃されていたと思うぞ。」

「立派な鷹が産まれたが、上と下に竜がいた。そんな感じだな。」


「アルガス様の運の悪さはわかったが、その巻き添えで地獄の特訓をさせられる俺たちは更に不運だろ。」

「あの人の機嫌を治す方法は無いのか。」

「いっそ、帝国が手を出してくれれば、いいストレス発散になるんだがな。」

「不謹慎だが、それが一番手っ取り早いな。」

「アルガス様は戦場で一番イキイキされるお方だからな。」


そして数日後、

「聞け!

ドルマ帝国の不届き者どもが国境付近で山賊行為を行っているらしい。

エール王国に手を出す愚かさを教えてやろうぞ!」


ドルマ帝国は不況が続き、田畑や家業を棄て、山賊に身を落とす者が増えている。特に継げる土地やお店が無い次男や三男が山賊行為に手を染めるケースが増えている。

本来、国はその受け皿となる仕事を創出しなければならないが、ドルマ帝国は山賊になる者を周辺国に誘導し、他国を乱すように仕向ける。場合によっては安物の武器を支給するような場合もある。

今回も同様のケースだ。

軍隊とは違う厄介さがある。軍は負ければ撤退するが、山賊たちは生き残った者が息を潜めて、討伐隊が去った後に山賊行為を再開する。また、討伐隊が派遣されたことを知れば、すぐに逃げ出す。そして追跡を諦めて帰れば、やはり山賊行為を再開する。


しかし、アルガスの相手をするには力不足。

「全軍、包囲しろ。ネズミ1匹逃がすな。」

アルガス隊は音もなく、しかし風の如く駆け抜ける。

「殲滅せよ!」

圧倒的な実力差による一方的な戦い。

包囲網にも穴はある。

そこから逃げようと山賊が殺到する。

逃げ出す山賊たちがどんどん討ち取られていく。

そして、その逃げ道は罠。闇雲にバラバラに逃げられると手間がかかる。だから、わかりやすい逃げ道を用意して誘導する。その先に待ち受けるのは地獄。


「アルガス隊から逃げられると思うなよ。」

「脱落者の山賊どもと我々精鋭部隊が勝負になるはずがないだろう。」

「アルガス様の采配をなめるなよ。弱い者にはめっぽう強いんだよ。」


先頭で戦うアルガスが檄を飛ばす。

「俺について来い!遅れた者は訓練を倍にするぞ!」

瞬く間に山賊たちは数を減らしていく。

アルガス隊はエール王国最強クラスの実力を持つ。

逃げられるはずもない。


山賊たちの末路は悲惨だ。

死か奴隷だ。戦争で捕まった兵士は捕虜の交換や身代金等で戻ってくる場合もあるが、山賊はただの犯罪者。重罪の奴隷は最も過酷な環境で働かされる。

エール王国は奴隷の扱いは比較的優しい国ではあるが、他国の犯罪者に対して優しくすることはない。


あっさり戦いは終わり意気揚々とアルガスは帰還するのであった。

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