幕間 とある冒険者の報告
俺の名前はディック。ウィリアムの街に来て何年経っただろう。冒険者を続けている。
外街じゃあ、ちょっとは知られた冒険者になっている。『皆勤のディック』が通り名だ。
毎日サボらずにダンジョンに挑んでいたら、いつの間にか呼ばれるようになった。冒険者はまとまった金が手に入ると飲んで遊んでしまう。毎日毎日働くのはレアケースなのだ。
そして俺はこの街で転職に成功した。今では中級職になっている。中級職でレベル30を超えて、装備もしっかり揃えている。ウィリアムの街で購入した武器や防具は優秀だ。他の街では早々手に入らないし、あったとしても値段が全然違う。しっかり手入れしているから、切れ味もそのままだ。
そんな俺にもチャンスがやってきた。
不定期に開催される武道会。徐々に手応えを感じている。今回は本選に残れそうな気がしている。実力もついてきたと思う。もう口だけの駆け出し冒険者じゃない。
早速予選参加の登録を済ます。やはり人気だ。ただ武道会も回数を重ねる毎に大会のレベルの高さは有名になっている。全国から腕に自信のある猛者が集まるから、更にハイレベルな大会になっている。
今回の予選もダンジョンを利用する。適正レベル35のフロアでモンスターの相手をさせられる。強い相手だが昔より参加者も対応できるようになっている。
俺も負けていられない。攻めの姿勢で前に出る。モンスターの集中攻撃を受ければ失格もあり得るが、リスクを恐れず前に出る。
そして、賭けに勝った。
俺は本選に出ることができた。
ベスト4に残れば特別な商品を貰える。優勝したら勿論最高だが、そんなことは無理だろう。自分の実力はわかっているつもりだ。だが、後2回勝てば景品が貰える。死ぬ気で勝ちにいく。本選に勝ち残れるかどうかもわからない。ここで勝負をかける。
本選最初の相手は、『マスクドW』。
全身派手な衣装。しかも金ピカのマスクを着けている。訳がわからないが、気にしている場合じゃない。
対面して構える。
相手の武器は、、、箒?
意味がわからない。
ナメているのか?
開始の合図と共に剣を構えながら、一気に距離を詰める。
上段から切り落とそうとすると、マスクドWを見失っていた。
次の瞬間、俺は天井を見上げていた。
どうやったのかすらわからないが、転倒させられていた。
そのまま箒で掃かれて場外に放り出された。
何が起きたのか理解できなかった。ただ圧倒的に強いことは間違いない。箒で掃き出されたが、大怪我をせずに済んだことを喜ばなければならないのかもしれない。どうやっても勝てないのは間違いない。
この後、マスクドWが警備隊長のディーン氏に捕まり、連れて行かれた。
そして場内にアナウンスが流れた。
「マスクドW選手は本来参加資格を持っておりません。よってディック選手を復活。2回戦に進出とします。」
何かあったらしい。
どんな理由であれ、勝ち扱いになるなら文句はない。
次の戦いを待つ。
次の試合の相手はアルガス=ドラクロア。
マジか!?
ドラクロア家の次男様だと。
エール王国最強とも言われる男だ。
勝てる気はしないが、そんな人と戦える機会なんてまずない。成長のチャンスだ。全力で胸を借りるぜ。
2回戦。
圧倒的な威圧感。アルガス様の眼光に怯みそうになる心を奮い起たせる。
「逃げずに俺の前に立ったこと、褒めてやるぞ。」
「全力で挑みます。胸をお借りします。」
「その心意気は良し!かかってこい!」
剣を合わせること数合。
力の差を痛感する。強い。
どんどん押し込まれていく。ダメージが蓄積していく。
「よく戦った。名を名乗ることを許そう。」
「ハー、ハー、ハー。ディックと申します。」
「ディックか。憶えたぞ。
その気があればいつでも俺のところに来い。雇ってやる。
さて、そろそろ終わらせるぞ。」
アルガス様が一気に攻めこむ。
防ぎきれない。蹴り飛ばされ転倒したところに剣を突きつけられる。
「それまで!」
審判が試合を止める。
結局、俺はベスト8で終わった。
また日常が戻ってくる、そんな時に急に声をかけられた。
「冒険者のディックだな。」
声の相手を見ると警備隊長のディーン氏だった。
「ディーンさん?」
「俺のことを知っているのか。なら話は早い。警備隊で働く気はないか?スカウトだ。」
「えっ!?スカウト?
なぜ俺なんです?もっと強いヤツもいるでしょう。」
「本選に出場したんだ。実力には自信を持っていい。それに真面目に働いてくれそうか。とか、ウィリアムの街を守る気持ちはあるか。とか、そういう点も考慮している。
どうだ?」
「願ってもない話だ!是非働かせてくれ!」
「そう言ってくれると助かる。これから時間はあるか?少し説明をしたいんだが。」
「もちろん大丈夫です。宜しくお願いします。」
こうして、俺の警備隊就職が決まった。冒険者を永遠に続けることはできない。良い就職口があれば飛びつくのは当たり前だ。
すぐに俺はダンジョンの中街に引っ越し、警備隊員として働くことになった。
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