幕間 ロンムの国王と王子
「失礼致します。」
国王の私室にウィリアム王子が入ってきた。
「よく来た。人払いはしてある。気楽にしてくれ。」
たとえ親子と言えど、気軽に会うことはできない。後継者争いなどの問題もあり、2人きりで会うのは数年ぶりの出来事だった。
「ありがとうございます。」
「こうして2人きりで会うのも数年ぶりだな。フィガロから帰ってきたお前は見違えたよ。」
「そうでしょうか?」
「あぁ、昔から優秀ではあったが清廉潔白過ぎる傾向があった。だが、激しい戦いを経験して変わったな。清濁合わせ飲む度量ができた。」
「お褒めに預かり光栄です。自分でも成長できたと思います。ですが、戦いの影響と言うよりもウィリアム=ドラクロアの影響が大きいと思います。」
「それほどの男なのか?」
「はい。今まで出会ったことのない傑物です。私に王になるためにはなんでもするという覚悟を決めさせたのは彼です。そして侯爵の凋落を画策したのも彼です。」
「やはりな。ミライ侯爵は強欲だが、無能ではない。相当のやり手だ。
だが、瞬く間に転げ落ちた。
それにあの男が安易に武力に頼るとも思えん。どうやって罠に嵌めたのか、それも謎なままだ。
それをドラクロアが指揮していたのか。」
「ええ。少数の部下を使って、どんどん追い詰めていきました。恐ろしい男です。しかも、その目的が対魔王軍を考えればロビンよりも私が王になった方がいい、ということだった。
たったそれだけのために、大国の情勢を簡単に左右できてしまう。あれだけの力を持っている人間は他にいないでしょう。何があってもウィリアム=ドラクロアと敵対してはならない。それだけは確信を持って言えます。」
「にわかには信じられんが、この状況で嘘を吐く理由は無いな。どうやったのか聞かせてくれないか?」
「どうやら、早馬の情報を手に入れて、途中で密書を入れ替えたようです。それも入れ替えたのを悟られないように行ったようです。
そして密書にて、ミライ侯爵の命令として兵士を集めさせたようです。
口にすれば簡単に聞こえますが、どうすれば出来るのか私にはわかりません。」
「ウィリアム=ドラクロアか。それほどの実力者ならエール王国外にももっと名前が広がると思うが?」
「本人が有名になることを望んでおらず、またエール王国も秘匿しようしています。ただその重要性は認識されており、王家からも破格の扱いを受けているようです。」
「ウィリアムの言う通りの能力を持っているなら当然だろう。何を望んでいるのかが気にかかることだな。」
「世界の平和や発展を素直に望んでいるようです。フィガロの復興にも多大な協力をしています。地位や名声には興味が無いようです。もし地位を求める男なら今頃エール王国の王は変わっていたでしょう。」
「私の尺度では理解できない男だな。」
「同感です。彼が無欲であったことが女神様の奇跡でしょう。いや、彼そのものが女神様の使いなのかもしれません。」
「女神様の使いと言うには少々過激過ぎると思うがな。」
「魔王という脅威に立ち向かうにはあれぐらいで調度いいのかもしれません。」
「なるほどな。
さてと、そろそろ本題に入ろう。
ウィリアムよ、王になるか?」
「はい。」
「躊躇いの無い返答だな。」
「父上より王位を継ぎ、ロンム王国発展のためにこの身を捧げることが子供の頃からの夢でした。
もう綺麗事を言うつもりはございません。」
「立派に成長したな。
私はあまり優秀な王ではなかった。
平凡なのだよ。それが背伸びをしながら王の役割を果たそうと頑張ってきた。
だが、魔王降臨があり、世界の情勢は乱れた。私の手におえる状況ではない。
ウィリアム、お前ならこの危機に立ち向かうことができるだろう。
エール王国、フィガロ王国と関係を強め、国内でもライラを追放したお前の実力は皆が認めている。
老害は去らねばならない。」
「父上、、、」
「私も平時なら死ぬまで王を続けただろう。だが今の混迷する時代に私が王を続けることは国にとって不利益にしかならん。
早々に段取りを組むように指示を出す。
お前もそのつもりで準備しておけ。」
「承知致しました。」
この後、トントン拍子に話は進み翌年にはロンム王国に新しい国王が誕生した。
時同じくしてロンム王国、フィガロ王国、エール王国の三国同盟が成立。
目下の敵は魔王軍だが、戦後にはドルマ帝国に対して歩調を合わせることも念頭に置いている。
この結果にドルマ帝国は危機感を高め、出遅れて取り残されたカンロ連合王国は悔しがったと言われている。
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