栄光の落日

ウィリアム王子の指揮に従いロンム王国軍が襲いかかる。


「む、迎え撃て!」

ロビン王子が反撃を指示する。

「早く逃げるのです!」

ライラ王女は退却を指示する。


ライラ王女に集められた兵士たちは状況が飲み込めず、またまともな指示も出ない状態で組織的に動くこともできない。


「落ち着け!

全軍退却だ!

我々を護衛しろ!」

ミライ侯爵の指示により、ようやく兵士たちが動き出す。


しかし、ウィリアム王子の率いる軍勢とは士気も統率も全然違う。

圧倒的優勢にウィリアム王子が進めていく。


「ひぃ~、もうそこまで敵兵が来ています。」

ロビン王子が情けない声を上げる。

「お父様、どうすれば?!」

「逃げることに集中しろ。闇夜に乱戦だ。チャンスはいくらでもある。捕まりさえしなければどうとでもなる。」

3人は護衛の騎士たちに囲まれながら、逃げようとしている。護衛をしているのは精鋭たちだ。この混乱状態でも王女たちを守って脱出しようと懸命に動いている。


その時、

「落ちな」

ウィルの声がする。


ライラ王女たちのいる一体の地面がへこむ。

馬たちは急な地面の変化に足を滑らせ転倒。

乗っていた騎士たちは落馬してしまう。


パーン!!


大きな音が鳴り響く。

馬たちはパニックになり、走り去ってしまう。残されたのは3人と護衛の騎士10名。

騎士たちは3人を守るように囲み移動を開始する。

落馬の影響で全身泥にまみれ、傷だらけになりながらも逃げ続ける。

足場の悪い森の中を走るのだから、何度も転倒を繰り返す。

「なんでこんな目に、、、」

ロビン王子が弱音をこぼす。

「弱音を吐くな。今は死ぬ気で生きろ!」

「す、すみません。」


暗闇を逃げ続ける中、

「殿下、何者かに狙われています。手練です。音もなく護衛を減らされています。」

「後何人残っている。」

「私を含め、、、」

急に声が聞こえなくなった。

「くそっ!!」

ミライ侯爵は悪態をつきながらも転げるように進み続ける。ライラ王女、ロビン王子も必死に後を追いかける。

3人はボロボロになりながらも敵兵の気配を避けながら這い回り、ようやく森を抜け出した。


そこは、、、

ウィリアム王子たちの目の前であった。

「反逆者たちを捕らえよ。」

ウィリアム王子の指示に従い兵士たちが取り囲む。

「やめんか!」

「止めなさい!私を誰だと思っているの!」

「い、嫌だ~」

3人の意思は無視され、縛りあげられる。


ウィリアム王子の前に縛られ、転がされた~人に向かって、

「謀反の罪は王族であっても許されるものではない。陛下の裁定が下るまで牢で反省するのだな。

連れて行け。」

「やめろ!こんなことをして許されるとでも思っているのか!」

「陛下にあなたの悪行は全て伝えますからね!」

「私は何も悪く無い。私は王子なんだぞ。」

罵詈雑言を口にしながら連れて行かれる。



3人はそのまま謀反の疑いで牢屋に入れられた。そして政治的取引が行われた。

『反乱を起こそうとしたのはミライ侯爵1人。ライラ王女とロビン王子は何も知らずに呼び出されただけ。』

そんな筋書きが用意された。

さすがに王女と王子が反乱を起こそうとしたのは外聞が悪い。王女と王子は助命と引き換えに、ミライ侯爵に罪を背負わせる証言をした。助命はされたが地方で軟禁されるという道を選んだ。

最後までミライ侯爵は無実を主張したが、処刑されることになった。


そして、

「ウィリアム王子、短い間でしたがお世話になりました。」

「こちらこそ世話になった。ウィリアムの存在が無ければ今もロンム王国は混乱が続いていただろう。時には熾烈な選択も必要だと学んだよ。本当にありがとう。」

「ロンム王国の安定は魔王軍との戦いで重要なことでしたので手伝ったにすぎません。」

「ロンム王国とエール王国が永遠に友好国であることを祈るよ。少なくとも『ドラクロア家』に喧嘩を売るようなことをしないように私の子孫に伝えよう。」

「そうですね。私もロンム王国とは善き隣人でありたいと思っています。こちらから喧嘩を売るようなことはしないと約束しますよ。」

「助かる。お前と争って勝てる気がしない。今ならヘンリー王子が言っていたこともよくわかるよ。」

「私は平和を愛する男ですよ。危険人物みたいに言わないでくださいよ。」

「ふふ、すまなかった。

ウィリアムはこちらからどうする予定だ?」

「一度エール王国に帰る予定です。そこから先はまだ考えていません。」

「そうか。いつでもロンム王国に遊びに来てくれ。歓迎するぞ。」

「ありがとうございます。それでは失礼致します。」


この世界では国をまたいでの移動は滅多にない。普通なら今生の別れになるところだ。しかし、ウィリアム王子は確信していた。ウィルならいつでも来られるのだろうと。

そのため、軽い挨拶での別れとなった。

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