パーティーパーティー

ウィリアム王子の部下、オスカーは戸惑っている。支持者を増やすためにパーティーをセッティングするように指示を受けている。

しかし、ウィリアム王子は決してパーティーが得意な訳ではない。どちらかと言えば苦手だ。下手をすれば敵を増やしかねない。ライラ王女派の人間が邪魔をしてくる可能性も十分にある。

それをウィリアム=ドラクロアの口車に乗って開催して、大失敗したという情報が出回れば致命的になる。

そんなオスカーの心配をよそに、ウィリアム王子はパーティー開催の命令を出してくる。

態度を明確にしていない貴族、ライラ王女派所属だがそれほど中心的ではない貴族、それをパーティーに呼んで味方にするのが目的だ。


そして、パーティーの当日。

「大丈夫でしょうか?」

「まったく問題無いよ。ウィリアム王子は特に気にせず、いつも通り振る舞って頂くだけで大丈夫です。」

「しかし、料理も会場設営もウィリアム殿に任せきり。ロンム王国の流儀もわからないでしょう。それに人手も足りないだろう。」

「大丈夫!助っ人は呼んでいます。

そうだ。呼んで来ますね。」


ウィルはヘンケンとムラーノを連れてきた。

「今回のパーティーを仕切ってくれてるヘンケンと、料理を担当してくれてるムラーノです。2人とも優秀だよ。」

「よろしく頼む。」

ウィリアム王子と挨拶をかわす。


オスカーが訝しげな表情を見せる。

「すまない。もしかしたら勘違いかもしれないが、どこかでお会いしたことがないですかな?」

「以前にエール王国に使節団の一員として、いらっしゃった際にお会いしております。」

ヘンケンが応えると、

「まさかヘンケン=マイガング卿ですか!」

「その通りです。ですが爵位は息子に譲り、今はウィリアム様に仕えております。今回のパーティーも万全の準備を致しました。ご心配なく。」

「なぜ宰相まで務められた方が、ウィリアム殿に仕えてらっしゃるのですか?」

「ウィリアム様に仕えられることは私の喜びです。それだけのお方です。」


「エール王国の前宰相が協力してくれているなら心強い。さすがウィリアムだな。」

「ありがとうございます。こちらのムラーノの作る料理も最高ですよ。」

「ますます楽しみだ。今日は宜しく頼む。」

「はい。全力を尽くします。」

王子に声をかけられて恐縮するムラーノだが、クラリスのおかげで若干の耐性はできているらしい。



そして、パーティーが始まる。

主催者はウィリアム王子。

ウィルやオスカーはそのサポートという立ち位置になる。

今回の作戦は面と点。


まずは会場の飾りつけと料理。

これはロンム王国伝統の物とエール王国の品、カンロ連合王国の品を大量に用意した。

これで、エール王国との関係の良さ。

カンロ連合王国との貿易をミライ侯爵から奪ったこと、それを来場者に印象づける。

そこにミライ侯爵領の窮状を噂話として流していく。

料理も勿論大きな効果を出してくれる。

『美味しい』だけではない。貴重な品をどれだけ集められるかも貴族の優劣を決める。集められる人脈や資金力、それを調理する料理人の腕、そういった諸々を示すための場所でもあるのだ。

更に手土産に化粧品も用意している。ウィル特製品で悪魔的な効果を持っている。

胃袋と妻をがっちり掴む作戦だ。

今回の参加者はそもそも、どちらが王になってもそれほど大きなメリットがない者たちだ。ウィリアム王子に協力した方がミライ侯爵に協力するより得だと思わせる。その効果を狙っている。


そんな中に大物も混ぜている。

ある程度の発言力を持つ伯爵が3名。

特にブライト伯爵。ブライト伯爵領を通らなければミライ侯爵は王都に人も物も運べない。交通の要衝になっている。

当然ミライ侯爵家との関係も深い。

現在の当主、ブライト伯爵の母親はミライ家の縁戚者である。

そのブライト伯爵がウィリアム王子支持を明確にすれば、ミライ侯爵には多大なダメージとなる。


ウィルはブライト伯爵に声をかけた。

「ブライト卿、お初にお目にかかります。ウィリアム=ドラクロアと申します。以後お見知りおきを。」

「噂は聞いているよ。君が来てから王子が積極的になったと。どうやって王子を焚き付けたのか教えてもらいたいものだね。」

「ドラゴンが育てば飛翔するのは当然のこと。ただ時が来たということでしょう。」

「なるほど。ではドラゴンの尾を踏まぬように気をつけねばなりませんな。」

「気をつけなければならないのはドラゴンだけではございません。ドラゴンの威を借るタヌキもいるとか。」

「ほう、珍しいタヌキもいるのですな。一度、見てみたいものだ。」

「すぐに会えますよ。王都に向けて馬車を走らせていますから。」

「なっ!?」

「欲を出し過ぎたタヌキの腹が破裂したようです。オンドル商会も冒険者も破れた腹からこぼれ落ちたようですよ。」

「どこまで知っている!?」


当然だがミライ侯爵領に近く、通りかかった商人の落とすお金が大きな産業となっているブライト伯爵は常に情報収集を行っている。そしてミライ侯爵領の最近の異変も多少の情報は入っている。ミライ侯爵が箝口令を敷いているため、十分とは言えないが情報は掴んでいる。そして、その内容には大いに興味がある。

それを取り繕う余裕はなかった。

ミライ侯爵領の状況はブライト伯爵領にも直結する。そして既に悪影響は出始めている。


そして、その焦りはウィルのペースに巻き込まれる隙を作ってしまった。

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