決断力

「このパーティーがラストチャンスだよ。」

「何を言っている、、、」

「このタイミングでたまたま不運が重なってミライ侯爵が落ち目になっているとでも思ってる?」

「それは、、、」

「そんな都合のいい偶然はないよ。」

「いったい何がおきているんだ!」

「なぜ教えてもらえると思っているの?

仮に私が説明したとして信じられる?」

「・・・信じる。だから教えてくれないか。」


「カンロ連合王国の品をオンドル商会とは別ルートで仕入れて採算度外視で売った。

街で一切お金を使わないように指示して、ダンジョンのドロップアイテムを値崩れするまで売り続けた。

簡単でしょ。」

ブライト伯爵はゴクリと唾を飲み込み。

「そんなことが可能なのか?」

「信じるって言ったよね。」

ウィルが軽く睨む。

途端にブライト伯爵は膝が震え、立っているのがやっとの状態になった。


「もちろんだ。だが、費用が莫大にかかる。そんな金がどこに?」

「フフフ、そんなことが想像できないようでは勝負にならないよ。」

「想像、、、」

「やだな~、そんな深刻な顔をしないでよ。せっかくのパーティーだよ。

そうだ!ブライト卿に良い知らせもあるんだ。」

「なんでしょうか?」

「ホセイ鉱山のモンスター討伐、してもいいよ。」

「本当ですか!?」

「可能だ。だが、相当のリスクもある。リスクに見合った対価を用意できるのは今だけだよ。」

「対価?」

「そう。『ウィリアム王子の援助によってホセイ鉱山の奪還に成功した。私はウィリアム王子に忠誠を誓います。』そんな宣言をするだけでいいよ。簡単でしょ。」

「そんなことをすればミライ侯爵との関係は、、、」

「もちろん終わるだろうね。それがどうしたの?ホセイ鉱山奪還の功績もついてくるんだよ。最高でしょ。」


ホセイ鉱山。ブライト伯爵領にある鉱山。

かつては栄えたが坑道がモンスターの巣につながってしまい。閉鎖された鉱山である。

もちろんロンム王国は何度も奪還に動いたが失敗している。

坑道とつながったのはマーダーアントという蟻のモンスターの巣だ。このモンスターは自由に穴を掘り、迷路のような巣を作る。成人の膝位の高さのモンスターだ。

彼らの作る道は人が活動するには狭く、身動きの取れない状態で四方八方から襲われ、入った人間は皆殺しになっている。

鉱山は魅力だが、蟻の巣に手を出せば大きな損害が出る。

ブライト伯爵領は宝の山を目の前に指を咥えて眺めるしかできない不遇の領地なのだ。


ウィルの提案は成功するなら魅力的だ。

ホセイ鉱山の奪還はブライト家の悲願と言える。しかし、それだけ困難な事業なのだ。ウィルの言葉を安易に信じる訳にはいかない。

しかし、間違いなくミライ侯爵は苦境に立たされている。もしミライ侯爵との今の関係を続けていれば、ウィリアム王子が王位を継承した後には冷や飯を食わされるのは間違いない。下手をすれば爵位を奪われる可能性もある。


一族の未来がかかっているのだ。悩むに決まっている。

「あなたに残された時間は少ないよ。このパーティー中に態度を明確にしなければ、ミライ侯爵を選んだとみなします。」

「そ、それはあんまりではありませんか!」

「考え違いをしてないか?

本来なら無かったチャンスを与えてあげてるんだ。問答無用で潰しにかかってもよかったんだよ。ウィリアム王子の慈悲に感謝するべきだと思うけど。」

「それは、、、」


ブライト伯爵の頭はフル回転している。

なぜウィリアム王子はチャンスを与えてくれたのか?

それは『ミライ侯爵に近い位置にいる私がウィリアム王子陣営に入った』ということを他の貴族に見せて、ミライ侯爵がいよいよ窮地に立たされていると思わせるのが目的だろう。

確かにウィリアム王子の優位が明確になれば、そんなパフォーマンスは必要ない。このパーティー中に決断しろというのはそういうことだ。


「さあ、運命の選択だ!

栄光と滅亡、あなたに残された道はその2つしかない。

どちらを選ぶ?」

ウィルが追い詰める。

ブライト伯爵はまだ考えは纏まらないが、答えなければならない圧力に勝てそうにない。

ふー、ふー、ふー

ブライト伯爵の息が荒くなる。


「ウィリアム王子に我が命を捧げます。」

「良い決断だね。じゃあ皆の前でショーをしてもらおうか。」

「わかった。」


ブライト伯爵はウィリアム王子に近寄り、跪いた。

その光景に周囲はざわざわとざわめく。

「ブライト卿、発言を許す。」

「有難うございます。

ウィリアム殿下にこの身を捧げ、変わらぬ忠誠を尽くすことをお許しください。」

「もちろんだ。ブライト卿のような方に支援して頂ければ、これ程心強いことはない。ロンム王国の発展の為に共に歩もう。」

「ウィリアム殿下の手となり足となり、ロンム王国の未来の為に身を粉にして働きます。」


一連の芝居がかったやり取りに対し、ウィリアム王子に近い者から拍手が行った。

そして、仕込んでいた貴族が、

「ブライト卿だけではございません。私もウィリアム殿下に全てを捧げます。」

そう宣言してブライト伯爵の後ろに跪いた。

更に数名の仕込みの貴族が続く。

その流れに焦った貴族が何人も続いた。

こうしてウィリアム王子に協力を誓う貴族を多数獲得することに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る