切り崩し

「それじゃ、私の作戦を共有します。」

ウィルの言葉にウィリアム王子とオスカーが頷く。

「ライラ王女が厄介なのは、実家の支援と協力商会の支援で潤沢な資金力があるからです。

なので、ライラ王女を支援しているオンドル商会には大損をしてもらいます。更に実家のミライ家にも大損をしてもらいます。

資金源が弱まれば、身動きが取れないでしょうから。」

「理屈はわかる。が、簡単にできることでは無いだろう。」

「いや、意外と簡単に打撃は与えられるよ。オンドル商会のメインはカンロ連合王国との貿易だ。カンロからの輸入品を王都で売って利益を出している。

そこで私の部下にも王都で輸入品の販売を開始させた。通常は海路、陸路と長距離移動が必要だから価格が高くなるけど、ウチは格安で販売する。オンドル商会の半値ぐらいで販売する。売上がどれぐらい落ちるのか楽しみだよ。」

ニヤリとウィルが悪役っぽく笑う。

「そんなことができるのか?」

「できる!」

力強く断言する。


「それと並行して、ミライ家の所有するネズミダンジョンを不人気ダンジョンに変える。それで冒険者の数を減らせば打撃を与えられるはずだよ。」

「確かに冒険者が一気に減れば税収が落ち込むだろう。しかし、不人気ダンジョンに変えることなどできるのか?」

「私はこれでもA ランクの冒険者なんです。冒険者のことは冒険者に任せてください。」


「王子、とても実現できるとは思えません。もっと現実を見るべきです。」

「・・・いや。

ウィリアムの提案に乗ろう。他には策はあるのか?」

「有難うございます。では後でリストを渡しますので、その者たちを呼んでパーティーを開催してください。現在、ウィリアム王子にもライラ王女にも与しない、浮動票を確保しましょう。」

「そう簡単には取り込めんよ。簡単になびくなら、既に態度を明らかにしている。」

「オスカー。私はウィリアムの提案に乗ると言ったのだ。お前も協力してほしい。」

「もちろんです。私は常に王子のことを第一に考えております。ただ泥舟に乗ってしまわないか心配しているだけです。誤った判断を諫めるのも役目と考えております。」

「ありがとう。お前の忠義は私の宝だ。そしてウィリアムを不審に思うのももっともだと思う。しかし、少し時間をくれないか。成果がでなければ反対してくれてもかまわん。」

「わかりました。御心に従います。」

「ウィリアムもかまわんな。」

「もちろんです。急いで成果を出しますよ。」

「期待しているぞ。」

「では、失礼します。」

ウィルは退席した。



そして。

オンドル商会がカンロ連合王国から輸入しているのは、香辛料、砂糖、紙を中心に取り扱っている。ロンム王国に運ぶ際は基本的に船が利用される。船旅はモンスターの危険が常につきまとう。護衛の冒険者を雇っていても沈没することもある。リスク分も経費に上乗せするためにロンム王国にたどり着く頃には積み荷は高級品になっている。それを更に王都まで運ぶ費用、護衛代がかかる。カンロ連合王国で購入する4~5倍になるのが当たり前だった。

だがウィルには転移がある。

アイテムボックスもある。

送料無しでカンロ連合王国の品をロンム王国の王都まで運べるのだ。

カンロ連合王国で買った値段の倍で売ってもオンドル商会の半値以下。

しかも長い船旅を経ていないので品質も良い。

そんな状況でわざわざオンドル商会から買う人はいない。

ウィルが立ち上げ、ミレーヌの部下が運営する『ウラドラ商会』は圧倒的な価格力でオンドル商会の売上を奪っていった。


ミレーヌからは、

「ウィル様、明らかにやり過ぎだと思いますけど。」

「やる時は徹底的にやらないとね。」

「ウィル様の設置した転移陣を使えば輸送コストはゼロですからね。勝負になりませんよ。オンドル商会の売上の約5割は貿易です。その売上がガタガタになれば経営の危機です。目的は達成かと。」

「そうだね。でももう少し続けるよ。立て直せないぐらいのダメージを与えないと。」


オンドル商会は在庫を売らなければ運転資金が生まれない。倉庫に置いてあるだけではただの不良在庫だ。仕方なく大幅ディスカウントして販売。赤字での販売を余儀なくされてしまう。

オンドル商会は当然、ウラドラ商会を敵対視してきた。突如現れ、売上を根こそぎ奪っていったのだから当たり前である。

当初は一時的なものかと思っていたが、ウラドラ商会の在庫が尽きる気配は無いし、安売りをやめる気配もない。商売で勝負をしようとしていたが勝てる気配がしない。


そこでゴロツキを雇って嫌がらせをしようとしたが、あっさり返り討ちにあった。ウィリアムの街の警備隊員を連れて来ているのだから、ただのゴロツキが勝てるはずがない。

次に権力を使って排除しようとした。ライラ王女と太いパイプがあるのだ。利用しない手はない。権力を盾に無理矢理難癖をつけようとしたが、向こうにも後ろ楯があった。ウィリアム王子だ。


そこでようやくオンドル商会は気づいた。

この新進気鋭の謎の商会、ウラドラ商会はウィリアム王子の差し金だと。

そして、敗北を覚悟した。

根本の目的が違うのだ。

オンドル商会は利益をあげることを目的として動いている。ライラ王女を支援しているのも、その方が儲かると思ったからだ。

しかし、ウラドラ商会は違う。オンドル商会に損をさせることを目的に動いている。利益を度外視で邪魔をしてくる。しかも裏にウィリアム王子がいる。勝ち目がない。無理をして張り合った時点でウラドラ商会の目的は達成されるのだ。


結局、オンドル商会はライラ王女の支援を辞め、貿易事業も大幅に縮小することで生き残りを計ることになった。

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