ゲオルグ

ウィルによってダンジョンはなんとか守られた。


「すまなかった。軽卒にも本気をリクエストした私が悪い。まさかダンジョンまで殺す攻撃があるとは想像だにしなかった。」

「さすがに地震が来た時は焦ったね。初めての経験だよ。」

「ああ、ダンジョンにも限界があるということだな。」

「ダンジョンは大事にしないとね。

ところで今さらだけど、ゲオルグって何者なんだ?」

「ああ、確かにダンジョンの奥で何百年も修行している変人というだけでは理解に困るな。

私はかつての魔王様が産み出した幹部の1人だ。力を求めるように造られている。修行に集中している間に主である魔王様に先立たれ、それ以降も修行を続けている。」

「なるほどね。それで今でも人間を滅ぼそうとか考えてるの?」

「そんな気はない。仕える主がいない以上、人間と戦うつもりもない。魔王様が復活されて、指示があれば人間とも戦うが、今の魔王は私の主とは別物だ。従う理由は無い。」

「そういうもんなんだ。」

「私からすればウィルの存在の方が遥かに不思議だがな。」

「私は普通の冒険者だよ。気にしないで。それよりもゲオルグはこれからどうするの?」

「もちろん修行だ。できればたまにでいいから手合わせしてもらえると有難い。」

「それぐらいならかまわないよ。私の友人にも修行に励んでいる人がいるから、ゲオルグも相手をしてあげてよ。」

「お安いご用だ。私にも得るものがあるだろう。」

「でも私より弱いから殺さないように気をつけてね。」

「もちろんだ。せっかくの修行相手を失うようなことはせんよ。」

「それと転移陣の設置もいいかな?私以外は転移魔法使えないし。」

「問題ない。」

「それからダンジョンポイントを稼ぐための仕組み作りをしたいから協力してよ。」

「そんなことができるのか?」

「簡単、簡単。まぁ準備がいるから、また声をかけるよ。」

「ありがとう。」


その後、連れてこられたカシムとゲオルグが戦闘。ゲオルグが勝利をおさめる。

それから頻繁にカシムが訪れ、ゲオルグとの模擬戦を行うようになり、2人は友人関係となっていった。

続いてカレンたちもトレーニングのためにやってきた。もちろん、ゲオルグに叩きのめされた。何度もゲオルグに負けたが、接近戦能力は格段に上昇していった。

かつての魔王の幹部に鍛えてもらう勇者というのもなかなか因果を感じる。


ウィルはここを監獄として利用する計画を立て、着々と準備を進めた。

下層に広いセーフティゾーンを作り、監獄とした。柵や塀は無いがセーフティゾーンの外は凶悪なモンスターが蠢くため、実質的に脱出は不可能。

無理やり脱出しようとすればモンスターの餌食だ。逃げられそうで逃げられない環境はストレスとなり、人の負の感情を引き出してくれるだろう。

連れてくる囚人はウィリアムの街だけでは足りないので、エール王国内の罪人をかき集めた。

もちろん、すぐに死んでは困るので、水と食糧は手に入るようにしてある。

木の実と芋などがはやした。そしてギリギリ見える距離だけど、モンスターが邪魔で行けない場所に果実と出口っぽい通路を用意した。

ストレスフルな環境ができたと思う。


この地獄の監獄を設置したことで安定的にダンジョンポイントは手に入るようになった。そして、なんのためらいもなく、こんな非情なシステムを作り上げるウィルにゲオルグは元魔王の幹部ながら恐怖を覚えた。

ゲオルグは人知れずウィルと敵対するのは絶対にやめようと心に誓った。



ウィルが『地獄』であれやこれややっている間にも、ウィリアム王子たちはロンム王国に向かって足を進めていた。

ウィル自身は『地獄』にいたが、ウィリアムの街の優秀なメンバーが派遣され、暗躍していた。

ウィルが街に戻ると報告が入った。

「どうだった?」

報告をするのは情報屋をやっていたランドだ。現在は各地に情報収集要員を派遣してその元締をしている。

「あまりよろしくない状況だな。あの王女様、かなり精力的に動いているぞ。それに実家だけではなく、いくつかの商会とも協力関係を作っている。潤沢な資金力で支持者を増やしてきている。ウィリアム王子が出兵している間にも裏工作に励んでいたよ。」

「そうか~。じゃあ反撃に移ろうか。」

「どうするんだ?相手は王女だぞ。下手な手を打てば処刑もあり得るからな。」

「大丈夫だよ。ディーン、ミレーヌ、ヘンケンにも協力してもらうから。」

「まぁ、こっちはもう少し情報を集めるよ。もうすぐウィリアム王子が帰ってくるからな。そろそろウィル様も合流した方がいいんじゃないか。」

「じゃあ行ってくるよ。サポートよろしくね。」

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