幕間 勇者の塔

フィガロ王国にて闇の軍勢との戦いが行われる前、勇者カレン一行は勇者の塔のあるロンム王国の街『ファーストタウン』に近づいていた。

本来は長い旅だが、カレンたちは先ほど馬車に戻ってきたばかりであった。

「いや~旅してる感ゼロだったな。」

「確かに、つい先ほどまでドラクロアダンジョンにいましたからね。」

「後少しでファーストタウンです。歴代の勇者が挑んだダンジョン『勇者の塔』。どんなところかわからないですから、万全の準備で挑みましょう。」


「もうすぐ街の入口に到着しますよ。」

ハンスが声をかけると、馬車は街の入口に到着した。大きな街なら街に入るのに列を作ることが多いが、ファーストタウンは辺境の小さな街。門番はいるが簡単に入れる。

ハンスが門番とやり取りをすると、

「カレン様。町長がお会いしたいそうです。何か話があるそうです。お会いされますか?」

「わかりました。ではその間に馬車を停めて参ります。」


ハンスたちと別れて、カレンたちは町長宅を訪れた。

「勇者様。長旅ご苦労様です。

ファーストタウンの町長、オルテです。

ファーストタウンの町長には代々、勇者様がいらっしゃった際にお伝えすることが受け継がれております。

聞いて頂けますか?」

「もちろんです。お聞かせください。」


「勇者の塔は女神様が作られた特殊なダンジョンです。

魔王が現れた時、勇者様が最初に訪れるダンジョンです。勇者様と言えどレベルが低ければ魔王どころか、その部下にも殺されてしまいます。それを防ぐために用意されたダンジョンです。

勇者の塔は歴代の勇者様が数ヶ月をかけて取り組む難関です。ですが攻略に成功すれば、数年分の修行を超える成果が手に入ると言われております。

勇者の塔は教会の中を通らないと見えません。そして、中に入れるのは勇者様のパーティだけです。勇者の塔の場所は歴代、町長と神父のみの秘密として受け継がれてきました。

どうぞ攻略に取り組んでください。」

「わかりました。勇者の塔を攻略致します。ご説明ありがとうございます。」


カレンたちが町長宅を出るとコロネが待っていた。

「お疲れさまです。ハンスが馬車を停めて、宿屋を予約しております。さすがにダンジョンに挑むのに宿も取らないのは不自然だろうと手配だけは致しました。ご案内致します。

実際は使わなくてもかまいません。宿屋よりもウィリアム様がご用意された部屋の方が快適でしょうから。」

「ありがとう。じゃあ宿屋に一旦入って、勇者の塔を見に行きましょう。」

「そうね。実際にダンジョンを見てから今後の予定を決めましょう。」



教会は街の北側、はしっこにあった。

通常教会は街の中心部辺りにあるものなので、かなり不自然な配置である。

カレンたちが教会に到着すると、神父が出迎えた。

「どうぞ中にお入りください。」


神父に続いて中に入る。

礼拝堂を抜けて、裏庭に出る門の前で神父が立ち止まる。

「この門から出ると、目の前に勇者の塔がございます。教会の中を通らないで裏庭に行っても何も無いようにしか見えません。

勇者様たちがいつでも通れるように鍵をお渡し致します。勇者の塔を攻略された際にはお返しください。」

「ありがとうございます。」

カレンが鍵を受け取った。


「勇者の塔は難関と聞きます。歴代最速で突破した勇者様でも一月はかかったとか。皆様も無理をせずに確実に攻略を進めることをおすすめ致します。」

「ご忠告ありがとうございます。行って参ります。」

カレンはそう言うと、門を開けた。

門の外には高々とそびえる塔が立っていた。

「不思議ね。こんな大きな塔が隠されているなんて。」

「そうだな。女神様の御力としか言いようがないな。」


塔の門は固く閉ざされている。

エリュートロンが押しても引いてもびくともしない。

しかし、カレンが触れると、扉は消え去り、中に入れるようになった。

「わ~お」

感嘆の声が漏れる。

一同は軽く頷き、いつも通りエリュートロンを先頭に進み始めた。


塔に入ってすぐに広間があった。

中央に女神像が置かれていた。

注意深く近寄ると女神像が輝きだした。

「勇者とその仲間よ。よく着ました。」

優しい女性の声が響く。

「貴女方がここに来たということは魔王が現れているのでしょう。

ここでは勇者として必要な能力を育て、経験を積むことができます。魔王も邪魔することはできないでしょう。

まずは全力でこの塔に挑んでください。

良い経験になることでしょう。

この塔は訓練の場所ですが、油断をしてはいけません。この塔で命を落とした勇者も過去にはいます。油断は禁物です。

この塔をクリアすれば、次の指針が示されます。しっかりと力をつけてください。」

声が終わると女神像の光は消えていた。

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