バルゴスの意地

メルの歌声が続く戦場では、連合軍優位で事態は推移していた。


四天王バルゴスは腕を組ながら、

「まさか、これほどか!

マウントタートルにテラーアーマーがこうも易々と防がれるとは想定外だ。

だが多少の奇跡がおきても我々の優位は変わらない。

今頃、勝てるなどと幻想を抱いているのだろう。愚かなことだ。

覆せない差というものを教えてやろう。

くっくっくっ、恐怖に押し潰される様をじっくり見てやろう。」



バルゴスの策は密かに進んでいた。

地中を進む陰。

土竜のようなモンスターが連合軍の地下を掘り進んでいた。連合軍の背後に出口を作り、挟撃する計画だ。

突然背後に大量の敵が這い出してくる。その脅威は相当なものだ。しかも計画は地中で進んでいるため、防ぐことも、察知することさえもできない。


もう少しで穴が開通する。

そんな時に、

ミシミシミシミシ

「何の音だ!?」

土竜モンスターは異音に驚くが、原因がわからない。


ミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシ


「ギャァァァァァ」

地中にて土竜モンスターの悲鳴が鳴り響くが地上には聞こえない。

せっかく掘った穴が瞬く間に閉じていく。

当然、そこにいたモンスターたちは全滅。

地上の人間が誰も知らない間に危機は去っていた。

「なかなか手の込んだことをやってくれるね。『いろんな策ができるオレ、スゲエ!』みたいなタイプかな。」

激戦の地には相応しくない、弛い感想を口にするウィル。



魔王軍サイド

「バルゴス様、申し上げます。デスモグラ隊が全滅しました。」

「なに!?

何故地中を移動していたデスモグラ隊が全滅するんだ?」

「原因は不明です。地中が完全に閉ざされて、近づくこともできません。」

「・・・わかった。

どうやら、こちらの想定外のバケモノが紛れ込んだのかもしれんな。

だが、魔王ダースダルダム様より与えられた役目は必ず成し遂げる。

トロルバード隊、ヘルモンキー隊、マッドバイパー隊を同時に動かすぞ!」


トロルバード。

大型の鳥タイプのモンスター。鳥タイプのモンスターは小型のスピード重視が多いが、トロルバードはその真逆。大きく遅い。しかし背中に2~3人を乗せて飛ぶこともできる。


ヘルモンキー。

猿のような見た目で、密林地帯での戦闘を得意とする。


マッドバイパー。

水陸両用の大型の蛇モンスター。水中を自在に動くことができる。


トロルバード隊は中央のフィガロ王国軍の背後を狙う。ヘルモンキー隊は右翼の更に外側からエール王国軍を狙う。マッドバイパー隊は川からロンム王国軍を狙う。


最初に発見されたのはトロルバード隊。

その危険性は一目瞭然。フィガロ王国軍は弓矢と魔法で攻撃を仕掛けるが、空高く飛行するトロルバードには有効打にはならない。

しかし、突如としてトロルバードがバタバタと落ち始めた。

フィガロ王の近くに潜んでいたソニアが本領を発揮した。2丁拳銃の乱射が驚きの精度でトロルバードを撃ち落とす。

高高度から落ちたトロルバードとその上に乗っていたモンスターは絶命していく。

「そなたは何者だ?」

「ただのメイドです。お気になさらずに。」

ソニアはフィガロ王の質問に答えながらも、射撃の手は止めない。

「わかった。皆のもの、鳥は無視しろ。目の前の敵に集中せよ!」


次に左翼に危機が迫っていた。

川を潜って移動したマッドバイパーの群れがロンム王国軍の背後に上陸してきたのだ。

指揮官のウィリアム王子は前線で戦っている最中ですぐに後列に戻ることもできない。

軍の最後尾には負傷兵や治療兵が位置していた。

数多の蛇が大きな口を開けて迫ってくる。

恐怖に押し潰され動けない治療兵、そもそも怪我で立つこともできない負傷兵。

しかし、彼らが蛇に飲み込まれることはなかった。

美しく輝く盾の数々。

それを1人で操るカシム。

「戦えない人を狙う。戦争では常套手段だが、それを見逃すことはできない!」

縦横無尽に飛び回る盾が蛇を抑え込む。

盾で寄せ集められた蛇をカシムが斬り裂く。

蛇の群れを1人で退治する美しき騎士。

まるで絵画のような。

まるで英雄伝の一節のような。

そんな光景の目撃者となった人々は、あれこそ勇者に違いない、と盛大に誤解をしていた。


右翼の後列はパニックになっていた。

前列をフルブライト・ドラクロア軍が踏ん張り、そこをヘンリー王子直轄部隊や戦える貴族が援護することで成り立っていた。役に立たないその他の貴族たちが後列に集まっていた。

そこを密林地帯を密かに抜けたヘルモンキー隊が強襲。不意討ちに軍は乱れまともな対応が取れない。前線で戦っている主力も後列を助ける余裕はない。

後列の混乱は前線にも悪影響を与える。

森に近い側に位置していたフルブライト公爵は苦しい状況に陥った。

前面からのモンスターへの対応だけでも手一杯だった。それが真後ろにモンスターが現れ、味方は混乱するだけでまともな対応ができていない。このままでは自軍の後列が猿に襲われかねない。それに味方の動揺は感染する。兵の士気か下がれば、総崩れになる恐れもある。

フルブライト公爵はウィルに貰った『卵』を見つめる。

ウィルからは戦いでピンチになれば割れと言われている。

フルブライト公爵は卵を地面に叩きつけた。

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