次の一手
魔王軍四天王バルゴスは戦況を見ながら、
「あれが人間どもの切り札となる部隊か。
確かに強い。
しかも戦いが始まる直前に『転移塔』を破壊された。
想定していたよりも人間も頑張るではないか。
だが、まだまだ足りんな。
俺が用意した手札はこの程度ではないぞ。」
ゴォォォン、ゴォォォン、ゴォォォン
戦場に大きな音が響く。
戦場にいる人たちはすぐに理解した。
これは足音である、と。
闇の軍勢の中に突如現れた山のような亀。
ただ歩くだけで轟音が鳴り響く。
5頭の亀の背中には大量の闇の軍勢が乗っている。
その巨体の前では人間の隊列も何も関係無い。簡単にまたぎ、簡単に踏み潰す。
攻撃手段を何も持たない。ただ歩くだけのモンスター。圧倒的な巨体と生命力。
部隊の運搬や陣形の破壊には絶大な効果を発揮する。それは誰がどう考えても自明の理。
真っ先に反応したのはリクソンであった。
「5部隊に分かれて、最優先で亀を仕留めろ!
あれを自軍本体に近づけるな!」
ウィリアム騎士団は部隊を分け、遠くに見える亀に突撃を敢行。
リクソンも1部隊を率いて、亀に向かって移動を開始。
前も後ろも右も左も上にも敵、敵、敵。
全員がダメージを受けながらも足を止めない。
亀に取りつき、足を斬りつける。
頭に向けて魔法を放つ。
身軽な者は亀の背中に登って攻撃する。
その間もモンスターたちの攻撃は止むことはない。
全員が傷だらけになりながらも、アイテムやスキルで回復しながら、亀のHP を削り続ける。
かなりの時間が過ぎた。
ゴゴゴゴゴゴゴ
すべての亀が落ちた。
膝をつき、そのまま腹這いに倒れた。
逃げ遅れて下敷きになったモンスターも多数。
しかし、勝利の代償は大きかった。
ウィリアム騎士団はバラバラになり、しかも団員は満身創痍。リクソンを中心に集合して部隊を立て直すのにかなりの時間が必要となってしまった。
その間に闇の軍勢は大穴を埋めてしまった。
ウィリアム騎士団は動けず、進路を阻む大穴もない。
闇の軍勢は怒涛の勢いで連合軍に襲いかかってきた。
フルブライト公爵
「厳しいな。
エリックは戦えているが、こちらは苦戦だな。ドラクロア軍と比べては可哀想かな。
さてさて、どうしたものか。」
ヘンリー王子
「兵を進めるぞ。
フルブライト・ドラクロア軍を支援する。崩れるのを黙って待つバカはおらんだろう。」
ラ~ラ~ラ~♪
突然、戦場に歌が広がった。
それもほぼ連合軍全体をカバーするほどの広範囲に。
「これは?」
「歌魔法か!」
「誰が歌っているのかわからんが心強い。」
「どうやってこれ程の広範囲に?」
「理屈はわからんがチャンスだ!」
メルの歌声がウィルの魔道具によって戦場全体に響き渡る。
全兵士の全能力上昇。
メルの歌魔法は聴こえる範囲の味方のステータスを1割上昇させる。それは劇的な効果がある。
歌魔法で能力を上昇させた兵士たちが闇の軍勢の総攻撃を迎え撃つ。
連合軍は歌魔法の援護を受け、有利に戦いを繰り広げた。
そもそも闇の軍勢の方が数が多いし、しかも恐れも疲れも知らないモンスターだ。人間の軍は半数が死ねば完全に瓦解するが、モンスターは最後の1体まで戦い続ける。
互角ではダメなのだ。
左翼にて。
「敵の精鋭だ!止められない!」
闇の軍勢が得意の精鋭による一点突破を仕掛ける。
この一点突破でフィガロ北部軍は敗れたのだ。隊列を精鋭で突破し乱戦に持ち込む。そうなれば数で優るモンスターたちを止める手段はない。
だが、
「デヤァァァァ!」
気合一閃。
先頭のモンスターが一刀両断される。
そこにはウィリアム王子が立っていた。
「同じ策が通じると思うなよ!」
ウィリアム王子率いるロンム王国の精鋭が襲いかかる。
モンスターの精鋭をロンム王国の精鋭が刈り取る。ウィリアム王子は精鋭を集め、いつでも動ける遊軍として備えていた。
王子が最前線に現れ危機を救う。
その事実は兵士の士気を大いに高めた。
「俺に続け!雑魚どもを蹴散らすぞ!」
「「「オォォォ!!」」」
勢いにのったロンム王国軍はモンスターをどんどん倒していく。
中央にて。
「させんぞ!!」
レクター将軍。
フィガロ王国北部の守備責任者。
モンスターの軍勢に敗れた男。
しかし、その経験は無駄ではなかった。
戦いの中でも敵の精鋭部隊に目を光らせていた。
そして、見つけた。
フィガロ北部軍の猛者たちを引き連れ、敵の精鋭に奇襲を仕掛けた。
これにより敵の精鋭に打撃を与えたのは勿論、味方たちにも準備をする時間を作った。
見事に雪辱を晴らし、フィガロ北部軍の意地を見せたのだ。
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