開戦

会議が終わってから、各国の軍は動きを開始した。

エール王国軍は右翼に位置する場所へ移動した。

決戦の場所はフィガロ王国の王都から1日近く歩いた場所。西側を川、東側を密林に遮られるために逃げ場はない。

かなり開けた平地だが総勢約76万の軍勢がぶつかるには少し狭い。

そんな場所をフィガロ王国は選んだ。


軍を動かしている間に、ウィルは転移して、サクッと転移用の柱の施設を破壊してきた。



ヘンリー王子の指揮により、密林近くにエール王国軍は陣取った。

最前線を作るのはウィリアム騎士団。

2列目をフルブライト公爵とエリックが務めた。

その他の貴族が3列目。

4列目にヘンリー王子直轄部隊が位置した。


自国の軍を見つめながら、ヘンリー王子は側近に声をかけた。

「ウォーレン、どう見る?」

「フルブライト、ドラクロア、両名の軍勢が鍵を握るでしょう。そこが崩れれば、全軍が崩れます。

もし両名の軍勢が危機に陥った場合は、その他の貴族たちに突撃させてでも立て直す時間を稼ぐべきでしょう。」

「そうだな。後はウィリアム=ドラクロアがどの程度の働きをしてくれるかだな。」

「戦いは数です。どれだけ精鋭でも500では戦況に大きな影響を与えることは不可能でしょう。」

「普通はそうだな。だが、私たちの想像を超えてくるのがウィリアムだからな。どんな奇跡を起こすのか楽しみだよ。」


徐々に闇の軍勢が近づいてきた。

それは圧倒的な数。

ほの暗い海が満ちてくるが如く、辺り一面を闇に染めながら迫ってくる。



各陣営で声があがる。


ヘンリー王子

「時は来た!

エール王国軍の勇猛さを示す時だ。

モンスターなど全て滅ぼしてやろう。

数が多くても烏合の衆だ。

恐れることは何も無い。

我らの力を見せてやろう。」


フルブライト公爵

「これは勝てる戦いだ。

気負わんでいい。いつも通りやればいい。

必ず勝つ。

こういう時の私の読みは外れん。

生き残ることだけ考えろ。

生きてさえいれば必ず勝利の喜びを分かち合える。」


エリック

「勝利は常にドラクロアと共にある!

敵を打ちのめし、

味方に勝利をもたらすのがドラクロアの役目だ。

敵の数が多い?

それがどうした!

一騎当千の猛者の集まり、それがドラクロア軍だ。

他国の兵士にドラクロアの武威を見せつけてやれ。

さぁ、蹴散らすぞ!」


リクソン

「これから実戦だが、勝つのは当たり前だ。内容が重要だ。

ウィリアム様の前で無様な戦いはするなよ。もし訓練不足を感じたら、訓練メニューを倍に増やす。

この程度の雑魚相手に手間取るなよ。」


各指揮官の檄がとび、

ついに戦闘が始まる。


両軍は魔法や弓矢を放ちながら、接近していく。

双方で爆炎が上がりながら、最前線がぶつかる。


右翼では、

大きく広がったウィリアム騎士団が目の前に来た敵を片っ端から始末していく。

リクソンは多少の取りこぼしは無視しながら、どんどん前に兵を進めていく。

2列目のフルブライト・ドラクロア軍は中央のフィガロ王国軍と足並みを揃えて止まっている。

ウィリアム騎士団だけが戦線を無視して、どんどん敵陣に入り込んでいく。


普通なら完全な勇み足。敵に囲まれて擂り潰されるのが目に見えている。

しかし、ウィリアム騎士団は圧倒的な実力で、囲まれていることを一切気にせず、足を止めない。

周囲の敵を薙ぎ倒しながら、すごいスピードで進んでいく。

そして目標地点に到達すると、ウィル特製の魔道具を設置する。

ウィリアム騎士団が駆け抜けた後、魔道具は作動し、超大型の落とし穴を作りだす。

広さも深さも特大サイズ。


戦いが始まって先手を取ったのはフィガロ連合軍であった。

ウィリアム騎士団が敵陣内を縦横無尽に駆け回り、多数の特大穴を戦場に設置。

モンスターたちが穴に落ちたのはもちろんだが、それ以上に通路が狭まり、行軍がそこで大幅に遅れる、そしてその後広がるため、密度も陣形も出来上がらない状態で連合軍と戦うことになっている。

数は多いがまとまっていなければ、しっかりと防衛陣を敷いている連合軍が圧倒的に有利だった。


フィガロ王

「さすがは『ドラクロア』!

少数の兵でこれ程戦況を左右するとは!

これ以上頼もしい味方はないな。」


ウィリアム王子

「ドラクロアの武勇伝はまことだったようだな。我らも負けてられないぞ!

近づく敵を片っ端から叩きのめすぞ!」


ヘンリー王子

「ウィリアムの直轄部隊はさすがだな。

あれだけのことを当たり前のようにやってのける。まだ序盤戦だ。これからの戦いにも期待させてもらうぞ。」


リクソン

「相手は魔王軍の四天王。この程度で勝てる相手ではないでしょう。

戦況の変化に対応できるように、いつでも動けるようにしておきなさい。」


まだ戦いは始まったばかり。

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