フィガロ王国
ついにエール王国軍はフィガロ王国に到着した。軍は王都近くに駐留し、ヘンリー王子を中心とした代表団のみが王宮に向かった。
「ヘンリー王子、エール王国の皆様。よく御越しくださいました。国王陛下がお待ちです。こちらへどうぞ。」
フィガロ王国の役人に連れられて一行は謁見の間に入った。
中には白髪の高齢な王とその家族、重臣、衛兵たちがいた。
ヘンリー王子たちが進み出ると、王は立ち上がり、歩み寄った。
「ヘンリー王子。エール王国の勇士たちよ。我が国の危機に駆けつけてくれたこと、心より感謝します。」
フィガロ王はヘンリー王子の手を握りしめ、頭を下げた。
その光景に周囲は呆気にとられた。
あり得ない対応だ。
大国の王が自ら歩み寄り、頭を下げる。
外交上は褒められた対応ではない。
しかし、フィガロ王の真摯な対応はエール王国一行にも伝わった。
「頭をお上げください。我々は共に魔王と戦う同志です。兵を出すのも当たり前のこと。気にされる必要はございません。」
「有難う。兵を出してくれたことだけではない。治療兵と食糧を先行して提供してくださった。それがなければパニックがおきて、決戦をむかえることすらできなかったかもしれない。我々はこの一戦にすべてを賭けて挑むつもりだ。それができるのはエール王国の支援のおかげだ。この恩は忘れはしない。」
「では、共に戦い、勝利の美酒を酌み交わしましょう。」
「約束しよう。私の秘蔵の酒を振る舞おう。」
「それは楽しみです。負けられない理由がまた1つ増えました。」
「明日、決戦に向けた会議を行う。エール王国は戦上手と評判です。是非、ご意見をお聞かせ願いたい。」
「承知致しました。また明日参ります。」
ヘンリー王子一行が王宮を出ると、騎士の一団がやってきた。
「エール王国の皆様。突然呼び止める非礼をお許しください。」
「何か用かな?」
「私はフィガロ王国で将軍を務めるレクターと申します。北部の守備の責任者でした。闇の軍勢に敗走し、民が避難する時間を稼ぐことしかできませんでした。借りを返したいという思いはあれど、ほぼ部隊全員が負傷し、戦場に立てる状態ではありませんでした。
しかし、エール王国の治療兵のおかげで全員戦えるようになりました。このご恩は一生忘れません。この剣に誓って、受けた恩は必ず返します。」
「さすが、フィガロの騎士。
では、戦場でその武威を示してください。
誇り高きフィガロの騎士と共に戦えることを光栄に思う。」
「有り難き御言葉。」
騎士が去った後、
「ウィリアム、どれだけの支援を行ったんだ?感謝が重いぞ。」
「食糧はのべ20万食程度でしょうか。
治療も直接は2万人程度ですが、廉価版ポーションも2万本ぐらいばらまきました。」
「少数を先行させただけで、なんでそんな結果になるんだ?」
「まぁ私の部下は優秀なので。」
「は~。考えるのがバカらしくなるな。だが、結果だけ見れば、フィガロ王国の戦力が整い、我が国との関係は大幅に良くなった。過程を考えなければ、最高の結果だな。」
「王子、それは勝ってから言うセリフですよ。ウィリアムのペースに巻き込まれてはなりません。」
フルブライト公爵がヘンリー王子を嗜める。
「そうだな。これからが本番だ。気を引き締めないとな。」
「その通りです。明日の会議にはロンム王国の代表も参加します。主導権争いが起こる可能性も考えておかねばなりません。」
「ロンム王国は誰が来ているのですか?」
「ウィリアム王子が代表のようだ。」
「どのような方なのですか?」
「タカ派で有名な王子です。長男ですが、王女が次男を溺愛しているため、王宮内で対立が発生しているとの噂もあります。今回の戦いでは手柄を欲しているでしょう。」
「大局よりも自分の手柄に走る可能性があるわけか。」
「人物像はわかりませんが、最悪は想定するべきでしょう。それにロンム王国以外の諸国も不安はございます。今回参戦している国も積極的に戦うというよりも連合軍に参加したという実績を作って、もしもに備えたい。積極的には戦いたくない。そういう考えの国も少なからずいるでしょう。」
「多くの国が一致団結するというのは難しいな。フィガロ王の腕の見せどころか。我が国としても協力していかねばならんな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます