ブードー伯爵

早速、帝国に転移した。

ブードー伯爵領には行ったことはなかったけど、近くまでは行ったことがあったので簡単に行けました。

ブードー伯爵領は帝国内部にある小さな領地で、貴金属加工や木工品などが名産品というのどかな街、というのが表向きの顔。

裏では呪術士たちが呪いの品を作り、それを工作員が仕込む。人目につかない街では工作員の育成なども行っている。帝国の暗部に深く根差した街なのだ。


さすがにいきなりバレると困るので、普通の旅人風の服装で来たけど、ここは旅人なんて来ることがない場所だから、どうやっても人と会うとバレそうだね。

方針を変更して、とにかく気配を消して隠れることにしました。

服装も旅人風から全身黒一色に変更。

もし見つかれば、即通報ものだね。

領主の館に近づくと、明らかに警備が厳重だった。しかも普通は分かりやすく見張りを立てるものだけど、ここは見張りを隠している。


とにかく見つからないように進んでいく。

館の敷地内には入れたけど、警戒レベルが高過ぎる。

とりあえずブードー伯爵のところまでは騒ぎを起こさずにたどり着きたいね。

さすがに部屋の前に立つ見張りはスルーできないな。一瞬の早業で見張り2人を殺す。

そして部屋の中へ入った。

部屋の中には30代の男女と子どもが2人、使用人が3名。

見張りの死体を抱えたまま部屋に入る。

「邪魔するよ~。」

「何者だ!!」

「知り過ぎの君たちにこれ以上情報を与える必要があると思う?」

「君が誰の命令で、何をするつもりなのか、少しぐらい教えてくれてもいいんじゃないか。」

当主風の男が家族を庇いながら、精一杯の虚勢で話をしている、という雰囲気だが、実際は時間を稼いで、裏で戦力を集めているってところかな。

付き合ってあげるよ。


「死ぬ者が知る必要は無い。」

「レジーナのレジスタンスか?」

「レジスタンスに貴様の存在がバレていたら大問題だな。」

「では、どこの勢力の者なんだ!」

「知る必要がないと言っているだろ。貴様の存在が今後の政策上、不要になった。それだけのことだ。」

「何が目的なんだ?」

「質問が多いね。時間稼ぎの目的はなんだ?」

「時間稼ぎなんて、そんな、、、」

「貴族辞めても俳優で生活ができそうだな。」

「演技など、滅相もない。私の命が誰に、何故、狙われているのか、それを知りたくなるのは自然なことでしょう。」

「そうだな。屋根裏でネズミが走り回っていなければ、その説明に説得力もあっただろうがな。」

一瞬反応が遅れたが、すぐに驚きの表情を作りあげる。本当によく鍛えられているよ。

「屋根裏にネズミですか?何を指していらっしゃるのか、私には何も心当たりが無いのですが?」


「・・・もうやり取りも飽きたぞ。」

「なら楽しませて差し上げましょう。少し余裕を見せ過ぎたようですね。」

8人の暗殺者が、天井裏から、窓から、隣の部屋から、一気に襲いかかる。


遅過ぎる。

所詮レベル40に達しない暗殺者だ。

訓練はされているが、それで覆せる差ではない。

全員を惹き付けて、数撃かわす。

暗殺者が全員近くに来るのを待ち、反撃にうつる。

反撃は瞬く間に終わった。

8人の首が宙を舞った。


その後、当主、その妻、子ども、使用人の首をはねる。

「ある程度、暗殺者は集められたかな。次は呪術士たちだね。」



翌日、ドルマ帝国の城ではパニックが起きていた。

「皇帝陛下!大変です!宝物庫が空になり、謎の箱が置かれていました。」

「何を言っているんだ。落ち着いて説明しろ。」

「申し訳ございません。

宮殿の宝物庫の1つが空になっておりました。ただ、そこに大きな箱が置かれており、箱にはブードー伯爵の置き土産とだけ書かれておりました。」

「・・・わかった。まずはその箱を城外に運び出せ。人のいない場所で中を調べよ。併せて犯人を探し出せ。ブードー伯爵との連絡も急いでつけろ。」


皇帝は指示を出しながらも、事態の深刻さに頭を痛めていた。

宮殿の内部に忍び込み大量の金品を盗み出す。それだけでも大問題だが、さらに謎の大きな箱を設置して、そこにブードー伯爵の名前が出てくる。伯爵は帝国の暗部に深く関わる人物だ。しかも呪いのスペシャリスト。その置き土産と書かれている以上、呪いを警戒しなければならない。しかも部下には呪いのことは口外できない。


皇帝はすべてを話せる腹心数名を呼び出し、内密に指示を出し、事態の収拾に動いた。

しかし、部下たちから届く情報で更に頭を痛くするのであった。

「箱が動かせません。特殊な魔法のようです。現在宮廷魔術師が対応にあたっています。」

「ブードー伯爵家が全滅です。本家のみならず、分家の者も被害は甚大とのこと。」

「箱の対応にあたっていた宮廷魔術師たちが次々と体調不良を訴えてきました。」

「物理的に破壊することはできんのか。」

「直ちに騎士たちに破壊させます。」


「陛下。強固な結界が張られていて破壊もできません。それと破壊を命じた騎士たちも次々と体調不良になっております。」

「そんな報告はいらん!たかが箱1つに何をしているんだ。さっさと終わらせろ!」

「御意。」


結局、箱にかかっていた魔法が消えるまで1週間。帝国中枢の戦力を総動員したが、何も出来ず、ただ体調不良者を増やしただけであった。

この問題で皇帝の威信は大いに傷ついた。自力で解決できなかったことが城内に広く知れ渡ったからだ。

更に暗殺や呪いを得意としたブードー伯爵家の代わりはすぐに用意できず、体制をどうやって整えるかに苦慮することになる。

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