新たな命
「ウィル様、ローザリア様の陣痛が始まったようです。」
「わかった。すぐ行く!」
ソニアからローザリア姉さんの出産が近いとの情報が入った。
ウィルは急いでドラクロア邸に転移した。
屋敷は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
オデロ、エリック、アルガス、バルデスの男性陣が集まっていた。
「ウィルも来たか。」
「はい。今はどのような状況ですか。」
「ローザリア様が産気づいてから1時間ほどです。産科医とマリアンヌ様、カリーナがそばについています。今のところ問題は無いようです。」
執事のバルデスが説明をしてくれた。
「わかった。何か問題があればすぐに私に言ってください。なんとかしますから。」
「わかりました。カリーナに伝えておきます。」
バルデスが去っていった。
「ウィルが来てくれて良かったよ。安心感が一気に増したよ。」
エリック兄さんはそう言うが落ち着かない様子のままだ。
「落ち着かないエリック兄さんなんて珍しい光景が見られたことも産まれてくる子どもに感謝しないとね。」
「ハハハ、大丈夫だと思っていてもどうしてもね。」
「男は黙って待つことしかできん。」
さすが父上、落ち着いてるね。
しばらく待ち続ける。
すると、
「オギャアオギャアオギャア」
カリーナが駆けてきた。
「元気な男の子です!
母子共に問題ございません!
現在、マリアンヌ様がローザリア様を回復してくださっています。
エリック様、こちらへどうぞ。」
エリック兄さんが部屋に入ると、
汗で濡れた髪が顔に貼りつき、疲れを滲ませたローザリア姉さんが声をかけた。
「エリック様、元気な男の子です。お名前をお願い致します。」
「よく頑張ったね。この子の名前はもう決めてあるんだ。」
「ちょっと待って!少し厄介なのが部屋に入り込んでいるね。」
「えっ!?」
ウィルは部屋に入ると銀の女神像を掴むと、女神像の周囲に結界を張った。
「では、続きをどうぞ。」
「えっと、もういいのかな?」
「気にせず名前をつけてあげて。」
「なんか変な感じになってしまったけど、仕切りなおそう。
コホン、この子の名前はクルツだ。」
エリック兄さんが名前をつけた瞬間、女神像から黒い霧が溢れ出してきた。
ウィルの張った結界の中は真っ黒に染まっていた。
オデロが警戒しながら、
「それはなんだ?」
「呪いだね。おそらく命名の瞬間に発動する仕掛けかな。発動の瞬間を限定して、威力を高めているんだろうね。本来は女神像から神々しい光と共に子どもを包む演出になっていたみたいだよ。そうすれば誰も呪われたと思わないからね。」
「どんな呪いなんだ?」
「う~ん。呪いの中身までは正確にわからないけど、殺すような内容じゃないね。おそらく性格破綻者にしてしまったり、病弱にしたり、そういう系統じゃないかな。」
「その女神像を持ち込んだのは誰だ。」
「父上。この一件、私に任せてもらえませんか。呪いの使い手は一筋縄にはいきません。」
「ウィル、ドラクロアに仇をなすとどうなるか教えてやれ。」
「わかりました。まずは屋敷に呪いなどへの防衛を施します。」
「わかった。すべて任せる。皆の者、この件は口外不要。わかったな。」
「「「「はい。」」」」
「では祝いの準備をせよ。」
使用人たちが一斉に動き出した。
「ローザリア姉さん、とりあえず、これを飲んで。体力を回復する薬だよ。弱っていると狙われかねないからね。」
「ありがとう、ウィル君。いただくわ。」
ローザリア姉さんが小さな薬を飲み干すと体がうっすら輝いた。
「これは?」
「エリクサーだよ。」
「一瞬で体が軽くなったんだけど。。。」
「これで安心だね。」
「普通は体力の回復目的でエリクサーは使わないものよ。ウィル君。」
さてと、やり返そうかな。
この女神像を妊娠のお祝いに送ってきたのはコンゴ男爵だ。父上の配下として何度も一緒に戦ったことのある、信用できる人物らしい。
騙されて呪いの品を掴まされたのか、裏切り者だったのか、調べる必要があるね。
おそらく、掴まされた方だろうけど。
どう考えても一介の男爵が用意できる代物ではない。
探ってみた結果。
流れの商人から格安で買ったらしい。
この商人を調べたが、どう考えても商人じゃない。行動から推測するにドルマ帝国のスパイだろう。
帝国が絡んでいるとわかったので、リクソンに呪いについて尋ねてみた。
「呪いを使った手は帝国の常套手段です。既に各国の首脳クラスは対策をしているので、最近はそれより下のランクを狙うことが多かったです。ターゲットの手元に届くように呪いの品をばらまくのです。1つでは効果の弱い呪いでも複数重なれば、大きな効果が出ます。」
「なるほどね。で、その元締は誰?」
「ブードー伯爵家です。表向きはただの地方領主ですが、裏では呪術士と工作員を使った呪いを請け負う家です。」
「ありがとう、リクソン。ちょっと行って来るよ。」
「ご武運を。」
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