国王の意志・勇者の意志
魔王降臨を受けて、翌日には国王の声明がエール王国全土に伝えられた。
その内容は、
昨日の現象は魔王降臨のしるしであり、イタズラや勘違いではない。
しかし、既に勇者の育成も進んでおり、恐れることは何もない。
勇者による魔王討伐まで我々は徹底抗戦する。
魔王の甘言に乗る必要はない。
魔王の紋章を体に刻んだ者は処刑する。
概ね上記の内容であった。
王宮では声明の作成及び全土への伝達だけではなく、対策についても打ち合わせが行われる。
打ち合わせ直前の別室にて。
「リカルドとオデロが戻ってきてくれたことは幸いだ。こんな事態は初めてだからな。2人はどう思う?」
「こんな時に真っ先に発言するような胆のすわったヤツはおらんだろう。まずは国内を安定させるべき、といった無難な意見を最初に出せば、全体の意見は流せるだろう。」
「混乱に乗じて、何かを仕掛けてくる輩は私が相手をしよう。」
「そうだな。まずは国内の安定。並行して魔王の所在の確認。それとドルマ帝国がこれを好機と見て攻めてこないように目を光らせる。そんなところか。」
「それで問題無いだろう。それと勇者の件はどうするつもりだ?」
「すぐに話はするが、魔王の所在がはっきりするまでは動かせんな。それにウィリアムのおかげで、既にレベルが50を超えている。いつでも最前線で戦えるだろう。」
「パーティーはどうされるおつもりですか?」
「今の学友にそのままパーティーになってもらおうと考えている。」
「ではウィリアムも。」
「勇者にウィリアム。万全の構えではないか。それに我が娘クラリスも同行させようと考えている。」
「危険過ぎないか。」
「本人の意思も確認せねばならんが、本人が拒否しなければ、参加させようと思う。レベル50を超えた大魔道士がパーティーに入れば心強い。それに竜騎士もセットだ。」
「確かに戦力としては魅力的です。」
「それに陛下の戦う姿勢も示せるだろう。他国との調整もやり易い。さすがに王女がパーティーにいるのに勧誘してくる国はないだろう。」
「では今の流れで進めていこう。」
一方、学園でも魔王の話題で持ちきりだった。
「魔王の邪魔したのウィルだろ。」
「バレた?」
「あんなふざけたことができるのはウィルだけだ。」
「それにしても私たちの時代に魔王が出てくるなんて。」
「レベルをしっかり上げておいて良かったわ。これからの時代、間違いなく混乱は増えるもの。」
「そうだな。魔王が降臨すると世界が乱れるのは世の常らしいからな。」
「陛下はどのような対応をされるのかな?」
「まずは国民の不安を払拭することを優先されるのではないかしら。」
「それから勇者のサポートって感じになるのかな。」
「勇者ってどんな人なのかな?」
「そりゃ、無茶苦茶強いんじゃないの。何せ魔王を倒すんだからな。」
「ウィルだったりして。」
「それは無いね。私は勇者って柄じゃないからね。」
「ごめん、みんなに言わなきゃいけないことがあるの。」
「カレン・・・」
「どうしたんだ?」
「ずっと黙ってたことがあって。
私、、、
私が勇者なんです!」
・・・
「やっぱりね。」
「えっ?」
「みんなが上級職になってから、カレンの能力の異常さは際立ってたもの。魔法も物理攻撃力、防御力、素早さ、すべてが優れているなんて、同じ上級職ではあり得ないことだからね。」
「それに入学直後のカレンはチグハグで目立ってたからね。」
「そうそう。何か裏はあるんだろうな、とは思ってたぜ。学園が隠ぺいしてるってよっぽどの事なんだろうとは思っていたが、勇者とはね。」
「じゃあ、みんな気づいてたの?」
「勇者とまでは思ってなかったけど、何か秘密はあると思ってたからね。」
「そうそう。カレンなら、勇者だって言われても驚かないよ。」
「さてと、秘密を公開したところで、そろそろ今後のことを考えようか。」
ウィルが話を進める。
「当然だけど、カレンは国王陛下に呼ばれる訳じゃん。そして、ダダダ魔王を倒してくれって言われるのは間違いないよね。」
「ダダダ魔王?」
「ダースダルダムって長いじゃん。だから、ダダダ魔王。」
「なんか緊張感が無い名前ね。」
「まぁ、魔王の名前はいいとして。
カレンが陛下に呼ばれた時、おそらくエリュートロン、モーリン、キースには声がかかるよ。なにせ、既に勇者とパーティーを組んでいるレベル50超えの上級職なんて、確実に戦力に組み込みたいはずだからね。」
「俺は?」
「非戦闘職のレオンは除外だよ。それとクラリスとリディアも陛下の選択次第で、それに従うだけだから、今は除外したよ。」
「つまり、私たち3人は選択肢がある、ってことを言いたいの?」
「そうだね。陛下に呼ばれる前に姿を眩ませば、自由に生きられるよ。」
「見損なわないで。私はカレンの友として、一緒に戦えるなら、喜んでパーティーに入るわ。」
真っ先にエリュートロンが胸を張って答えた。
「エリュートロン!」
カレンがそちらを泣きそうな顔で見る。
「ここまで一緒に過ごしてきたもの。今さら、ハイさよなら、は無いよね。」
「そうそう。それに勇者と一緒に冒険なんて、一生の自慢になるぜ。」
「モーリン、キース。」
「カレン、私たちは貴女の仲間よ。見捨てたりしないわ。これから勇者として大変な重荷を負うことになるでしょうけど、1人で抱え込まないで。私たちが共に負うから。」
「ありがとう、、、本当にありがとう。」
泣きだしたカレンをエリュートロンがそっと抱きしめた。
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