結婚披露パーティー

結婚式は特に問題も無く終わった。

続いてパーティーが始まった。

ここでも、オデロ、マリアンヌ、エリックは来客への対応で大忙しだった。

ウィルの持ち込んだローストビーフとズコットの回りには人だかりが出来ていた。


「こんな美味しい肉を食べたのは初めてだ。」

「肉の旨味は強いのにしつこくない。」

「こんな肉、どうすれば手に入るんだ。」

「ドラクロア伯爵の人脈と財力の凄さがこれだけでわかりますね。」


「このズコット、美味しい!」

「甘いけどスッキリしてる。」

「味だけじゃない。使っているフルーツの産地がバラバラだ。これだけの果物を新鮮な状態でかき集めるなど、どうすれば出来るのか想像もつかない。」


料理を食べた人が口々に褒め称えていた。

ウィルとしては評判が良かったことに満足している。


「あのズコットはウィルが用意したんだろ。」

フルブライト公爵が声をかけてきた。

「よくわかりますね。」

「仕事柄、色々なパーティーに出ることが多いからね。あのローストビーフとズコットを用意できるのはウィルしかいないよ。」

「ローストビーフは頑張れば作れるんじゃないかな。」

「あれはゴールデンカウかな。確かにレベル30以上の上級職を数人、肉の確保に雇えば手に入るが、非常に金がかかる。それに調理の腕もそこらの料理人とは段違いだ。」

「フルブライト卿にそう言って頂けると、うちの料理人も喜びますよ。」

「ウィルの持ってくる菓子はいつもうまい。妻や娘たちもファンだし、使用人たちもウィルの持ってきた菓子は取り合いになっているよ。」

「今度は酒造りに力を入れようかと思っています。もうすぐ私もお酒の飲める年なので。」

「自分の欲求に素直だな。ウィルの造る酒か。間違いなくうまいだろう。完成した暁には、是非試飲させて欲しい。」

「もちろんです。最高のお酒と最高のおつまみを持参しますよ。」


そんな話をしていると、

アルガス兄さんが壇上に立った。

「本日は私の結婚披露パーティーにお集まり頂き、誠に有難うございました。不肖アルガス、父上の息子として恥ずかしくない、」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

周囲が瞬く間に暗くなっていく。

頭に直接声が響く。

『我が名は魔王ダースダルダム。

深淵よりこの世界を破滅させる為に甦った。

恐れよ!

世界は闇に覆われる。

嘆け!

お前たちに救いはない。

跪け!

闇の眷属となれば赦そう。

我に忠誠を誓え。』


闇に包まれた空に不気味な紋章が浮かび上がる。


『この紋章を体に刻め。

魂は穢れ、我が僕と成れる。

女神を捨てよ。』

『やだよ。ダサイし。』


?????

魔王の話に割って入る謎の声。


『なっ!ダサくないぞ!

魔王ダースダルダムの紋章なんだぞ!

それに魔王の口上を邪魔するな!

マナーを知らんのか!』

『五月蝿いよ。それに無駄話してていいの?もうすぐ闇が晴れちゃうよ。』

『まずい!とりあえず、紋章を刻め!お前ら、いいな!』


謎の頭に直接語りかける声は大慌てで話を切り上げた。

そして辺りを包んでいた闇も晴れていった。


周囲の人たちは困惑している。

魔王降臨。

伝説の再来。

恐怖の象徴。

・・・それを邪魔して茶番にしてしまった謎の声。


そして一部の人たちは気付いていた。

『ウィルがやらかした』と。



まったく緊迫感の無い登場になってしまったが、魔王降臨には違いない。

アルガスのパーティーは有耶無耶のままに終わってしまった。

パーティーに参加していた貴族たちも領地を落ち着かせたり、王都に駆けつけたりと大忙しとなってしまった。


参加者たちがどんどん帰っていくなか、オデロとフルブライト公爵がウィルのところにやって来た。

「ウィル、非常事態だ。最速で王宮に行きたい。力を貸してくれ。」

「私も頼む!」

「わかりました。ミル、メル、すぐに戻る、ここにいてくれ。」

「「はい。」」

「ではこちらについて来てください。」

オデロとフルブライト公爵を連れて、人気の無い部屋に入ると、ウィルは転移魔法を使った。

そこはドラクロア家の王都の屋敷の一室だった。

「では、私はここで失礼します。」

そう言うとウィルは再び転移をした。


パーティー会場に戻ったウィルはミル、メルのところに戻ってきた。

「これからウィリアムの街に戻るよ。みんな不安だろうから落ち着かせて。」

「わかりました。今のはやはり本物の魔王でしょうか?」

「間違いなく本物だね。あんな世界規模の魔法なんて魔王にしか使えないと思うよ。」

「途中の声はやっぱりウィル様ですよね?」

「そうだよ。なんか調子に乗ったこと言ってるからさ、ちょっと邪魔したくなっちゃった。」

「何考えてるんですか。魔王カンカンですよ。」

「でも、ちょっと魔王の恐怖は和らいだでしょ。」

そんな話をしながら、ウィルたちはウィリアムの街に転移した。



・・・壇上には固まったままのアルガス。

そこに近づくガラリア。

「アルガス様、そろそろ帰りましょう。」

「・・・許さん。」

「えっ?」

「許さんぞ魔王!

俺たちの結婚披露パーティーを邪魔するなど万死に値する!

勇者などに頼らずとも、この俺がぶち殺してやる!

首を洗って待っていろよ!」

叫び続けるアルガスと、その横でオロオロするガラリア。

誰もいなくなったパーティー会場での一幕であった。

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