魔王降臨編
結婚と出産
早いもので、もう3年生になりました。
卒業まで後少しです。
ドラクロア家には嬉しいニュースが2つもありました。
アルガス兄さんの結婚が決まりました。相手はガラリアさん。ニヤム騎士爵の娘である。ニヤム騎士爵には息子もいるが、気弱で戦いに向かない性格だった。代わりに娘のガラリアさんは中級職『大斧士』であったため、兄の代わりに戦場に出ていた。アルガス兄さんとの出会いも戦場で、大きな両手斧をブンブン振り回す姿にアルガス兄さんが一目惚れしたらしい。
身分的には釣り合わない相手であったが、アルガスの強い要望により、結婚が決まった。近々アデードで結婚式を開くことが予定されている。
ガラリアさんは戦場では激しい気性だが、斧を置くと、途端に気弱でオドオドした態度に急変してしまう。本人曰く、斧を持つと心が落ち着くらしい。その豹変すらもアルガス兄さんはお気に入りらしい。
それと、もう1つの嬉しいニュース。
それはローザリアさんの妊娠。
それがわかった時は家中が歓喜に包まれた。
ローザリアさんのお腹はぽっこり膨らんでいる。出産の予定時期はアルガス兄さんの結婚式が終わって、1ヶ月後ぐらいになるのではないかと医師に言われている。
身重のローザリアさんを心配して、あたふたするエリック兄さんの姿は新鮮だった。
心配性なのはエリック兄さんだけではなく、ウィルも一緒になって心配していた。ウィルから毎日エリクサーを飲むように進められた時は、ローザリアさんもドン引きしていた。エリクサーは国宝級のアイテムで、1つで豪邸が建つような貴重なアイテムである。それを栄養ドリンクのノリで勧めるウィルに誰もがドン引きしていた。結局、非常時のために、1つ常備することで落ち着いた。
幸せムード一杯のドラクロア家にウィルとアルマが帰ってきた。
普通は週末だけ帰るなど出来る距離ではないが、ウィルの転移魔法で結婚式の朝に帰ってきて、式が終われば王都に帰るというスケジュールが可能となっている。
「「ただいま~」」
家中が結婚式の準備で慌ただしかった。
ニヤム騎士爵一家は少し前から屋敷に滞在している。貧乏騎士爵のニヤムさん一家からするとすべてが驚きの連続のようだ。
結婚式の前に顔合わせをすることになった。
「弟のウィリアムです。」
「妹のアルマです。宜しくお願い致します。」
「ガラリアの父のスネル=ニヤムだ。
そして妻のシャロン、息子のノビル、花嫁のガラリアだ。
宜しく頼む。」
簡単な挨拶を済ませると、
「披露宴用の料理を持ってくるよ。」
「メインとデザートを用意すると言ってたけど大丈夫?」
「もちろんです、母上。」
ウィルはダンジョン街のムラーノを訪ねた。
「お願いしてた料理は出来てる?」
「もちろんです、ウィル様。
ゴールデンカウのローストビーフに、四季のフルーツのズコット。どちらも美味しいですよ。」
「わぉ!是非食べたいね。」
「会場でお楽しみ下さい。」
「そうするよ♪」
屋敷に戻ると、どんどん来客が集まってきていた。
エリックの王都で行われた結婚披露宴よりも規模は小さい。来客のランクも少し下がる。軍部に関係する貴族がほとんどだ。来客の中で最上位はフルブライト公爵になる。
オデロ、マリアンヌ、エリックは来客への対応で走り回っている。
ウィルは料理を預けると、アルマと一緒に寛いでいた。
「ウィル様、私たちを放置しないでください。」
街の代表として来ているミルと、パーティーを盛り上げる為に呼んだメルの姉妹が声をかけてきた。
2人ともドレスアップして、いつもとは全然違う雰囲気になっている。
「ごめん、ごめん。父上に挨拶に行こうか。」
「お願いしますよ~。」
オデロの前には挨拶待ちの列が出来ていた。
しばらく待ってから、
「父上、こちらが、ウィリアムの街の代表、メル=デリアンです。そしてこちらが今日のパーティーで歌を歌ってくれるミル=デリアンです。宜しくお願い致します。」
「ウィルがいつも世話になっている。今日のパーティーにはアッパス砦で共に戦った仲間も多い。あの歌声を再び聴けるのは楽しみだ。今日は宜しく頼む。」
簡単な挨拶を交わして別れた。
「あ~緊張した。あのドラクロア伯爵と話すなんて夢みたい♪」
メルが気楽な感想を漏らしていると、デリアン姉妹の回りにもどんどん人が集まってきた。
「あのウィリアムの街の代表デリアン様ですね。少しお話したいことが、、、」
話題のウィリアムの街の代表と直接話ができるチャンスなどなかなか無い。
「じゃあ頑張ってね~。」
あっさり見捨てて去っていくウィル。
「そんな~~~」
メルの悲鳴が響く。
その横でミルは
(メルは話し掛けられて無いからね。)
と思いつつも口にはしなかった。
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