幕間 レザードの研究

「素晴らしい!!」

レザードが叫んだ。

レザードは『見果てぬ塔』のダンジョンマスターを務める男である。

研究のために己の肉体を捨てた、研究狂。


「やっぱり『見捨てられた地』のモンスターは違うの?」

「全然違う。ここらにいるモンスターとは根本的に違う。見た目が似たモンスターはいるが、中身はえらい違いだ。」

「ふ~ん。何が違うの?」

「『スキル』を前提としていないんだ。モンスターも当然スキルを使っている。炎を出したり、強風をおこしたりするのもスキルだ。一部のモンスターは飛行するのもスキルで行っている。だが『見捨てられた地』のモンスターは違う。スキルではなく技術や身体機能として行っている。こんなモンスターは初めて見た。もっとサンプルが欲しい。捕まえてきてくれ。」

「簡単に言ってくれるけど、大変なんだよ。見捨てられた地に行って、モンスターを生きたまま拘束して、連れ帰るって、けっこう難しいんだよ。」

「そんなことはわかっておる。おぬし以外には無理だろう。だから、おぬしがおる間に沢山のサンプルが欲しいんだ。だから、こうして頼んでおるんじゃ。」


まったく人にものを頼む態度では無いが、そんな常識をレザードに求めるのは無意味である。

結局、見捨てられた地から20体ほどのモンスターをウィルが生捕りにしてきた。



そして数ヶ月。

「ついに完成だ!」

以前から研究していたキメラ、

ウィルの持ち込んだダンジョンボスの素材、

見捨てられた地のモンスター、

それらを掛け合わせることで究極のモンスターを完成させた。


ドゴォォォォォォン!!


轟音が鳴り響く。

究極モンスターの攻撃で防壁にヒビが入った。

「たった一撃で防壁にヒビが入るとは、、、

これではすぐに拘束が解かれてしまうの。

一度暴れだしたら、止められんな。」


レザードはウィルが設置した転移陣を利用して逃げ出した。


「あれ?レザードじゃん。レザードがこっちに来るなんて珍しいね。」

「そんな呑気なことを言ってる場合では無いのだ!私の研究室が崩壊の危機だ。助けてくれ!」

レザードの尋常では無い様子にウィルにも緊張がはしる。

「どうした!?」

「究極のキメラを作ったが、攻撃力が高過ぎて防壁を破壊しておる。このままではダンジョンが崩壊してしまう!」


「わかった。僕が行くからちょっと待ってて。」

ウィルが駆け出す。

レザードの手に余るモンスター。相当強いのは間違い無い。ウィルは本気の装備に変更して転移した。


そこには瓦礫の上に悠然と仁王立ちするモンスターの姿があった。

体はベヒーモスのような太い腕と脚。

腕だけで人間よりも大きい。

全身は竜の鱗に覆われいる。

背中には竜の翼。

尻尾は植物のように枝分かれしウネウネと動いている。

顔は竜と獣のハーフのようで、禍々しさを醸し出している。


ウィルの姿を見つけるとニヤリと笑った。

刹那、爆発的なスピードでウィルに殴りかかった。

ドゴォォォォォォン。

間一髪、避けるウィル。

ウィルのいた場所には大きなクレーターが出来上がる。

「やるね。」

呟くウィルの真横に突如現れるキメラ。

身を翻し、かわしながら斬りつける。

斬られることを気にせず、そのまま腕を振り回し、ウィルが弾き飛ばされる。


クルクルクル、シュタッ。

着地を決めたウィルの真上に影。

咄嗟に横っ飛びに転がる。

ドゴォォォォォォン!!

先ほどよりも大きなクレーターが出来上がった。


「バケモノキメラ、強過ぎでしょ。」

キメラは連続攻撃をしてくる。

ウィルはなんとかかわしている。反撃はしているものの、ダメージにはなっていない。


ウィルは先ほどから弱体化系の魔法を放っているが効果は出ていない。

魔法防御力が高く、成功しないのだ。


「それなら!」

キメラの攻撃をしのぎながら、炎、氷、雷、風、土、光、闇と各属性を試すがどれも特別な反応はない。

弱点属性は無いのだろう。


こちらの魔法攻撃に反応したのか、キメラは上空に飛翔し、両腕を前に突き出した。

手のひらから暗黒の玉を次々に撃ち出してきた。辺り一面が闇に染まり、一気に爆発する。

周囲にあった瓦礫は消滅し、そこに残ったのはウィル1人だけであった。

「威力がえげつないね。」


パワー、スピード、防御力、魔力、魔法防御力、すべてが驚異的なスペック。

爆発を防いだウィルを見たキメラがニヤリと笑う。

「戦いを楽しんでいるのか?」


再び、キメラが急接近して殴りかかる。

ギリギリのところで避けながら、蹴りを放ち、その反動で距離をとる。

しかし尻尾が大蛇の群れの如く、ウィルに襲いかかる。全身に絡みつかれる寸前、大火球を爆発させる。爆発の反動でなんとか尻尾から逃れる。


実力を出し惜しみしている場合では無い。

勇者専用スキル『勇者の奇跡』を使う。

時間制限はあるが、飛躍的にステータスを上昇させるスキルだ。


スキルを使用した瞬間、スピードの差は圧倒的になった。

キメラの攻撃を易々とかわし、斬撃を叩き込む。一撃一撃の威力が上がり、剣を振るう毎に血が噴き出す。

キメラが上空に逃げようとするが、大量の落雷がキメラを襲い、地上へ押し戻す。

「逃がしゃしないよ。」


キメラが上昇を諦め、突撃してくる。

スルリと避けるウィル。

尻尾を捕まえようと伸ばしてきた。

数多の尻尾が迫り来る中、ウィルは小さなブラックホールのような物を生み出す。

数多の尻尾がブラックホールに飲み込まれていく。

「覚悟しろよ。『断罪』」

次の瞬間、ウィルの体はキメラの向こう側に移動していた。

しばらくして、一刀両断されたキメラの体が2つに分かれていった。

「『獄炎』」

2つに分かれたキメラの体が燃え上がる。

炎はおさまることなく、灰になるまで燃え続けた。


戦いを終えて、ウィルが戻ってきた。

「レザード、さすがにあれは危険過ぎる。僕がそばにいない時は作らない方がいいな。」

「そうじゃな。完成させる時はおぬしを呼んでからにしよう。」


その後、新しいキメラがどんどん作られていった。それはウィルの訓練相手になり、また装備の素材として活用されるようになった。

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