幕間 キルアのお散歩

キルアです。

『帰らずの回廊』のギルドマスターをしています。今日は招待を受けてウィリアムの街に向かっています。

こうして自分のダンジョンの外で招待を受けるなんて何百年ぶりだろう。

好きな時に遊びに来ていいとのことだ。

街に着いたらウィル、カシム、ソニアの誰かに声をかければいいだろう。


街に到着した。

ウィルというのは面白い男だ。

ダンジョンの周辺に街を作るのは昔からだが、ダンジョンの中にまで街を作ったのは初めてではないだろうか。


街に着いたので散策しながら情報収集をしよう。

ウィルの情報は簡単に集まった。

なにせ街の名前になっている男だ。全員がその存在を知っている。

ダンジョン内の街にいるらしい。

街はダンジョン内と外で明確に区別され、外の住人は中に入りたいと憧れているようだ。


ダンジョン内の街につながる通路には見張りがいた。人間にしては強い部類だろう。

しかし私の侵入を止めるには圧倒的に実力不足。私が通ったことも認識できずに見張りを続けている。


ダンジョンの中の街に入ると、一瞬で異常さに気がついた。

住人すべてが高レベルだ。

先ほどの見張りも高レベルだったが、あれがこの街では普通なのだ。

さすがにウィルの居場所を聞いてまわるのは目立つだろう。

街ならだいたい構造は同じで、中心の大きな建物が市長の館だろう。


それらしい館があった。

警備もしっかりしている。

早速侵入してみよう。


中を探索していると、食事中の部屋があった。

「ディーン。もう少し警備の訓練が必要だね。」

「いきなり何の話だ?」

「ここまで警備の網に引っ掛からず簡単に入ってきた人がいるんだよ。」

「なんだって!」

ウィルの話にディーンとリクソンが警戒の色を強める。

周囲を見回すがわからない。


「キルア、わざわざ遊びに来てくれてありがとう。」

「う~ん。気配は消してたんだんだけどね~。」

「ハハハッ、さすがだね。この階に来るまでわからなかったよ。」

「まぁウィル相手だと、見つかるとは思っていたけどね。」


突然のキルアの登場に全員が騒然としている。

「お久しぶりです。キルアさん。」

「カシムさんもソニアさんもお元気そうでなによりです。」

「ご紹介頂けませんか?」

ミレーヌから言われて、

「ごめん、ごめん。紹介がまだだったね。こちらは『帰らずの回廊』のダンジョンマスター、キルアだよ。」

「キルアです。ウィルから遊びにおいでとお誘いを頂いたので来ました。皆さん、よろしくお願いします。」

食事をしていたメンバーも順番に自己紹介を済ませていった。


「ソニア、キルアの部屋を用意して。

カシムは明日、街を案内してあげて。

悪いけど、平日の昼間は学校に行ってるから、僕はいないんだ。」

「フフフ、気にしなくていいよ。私にとって数日など一瞬に等しいからね。」

「そう言って貰えると嬉しいよ。

あっ、ディーン、キルアのことはお客様だって、警備隊に伝えといて。間違っても捕まえようとなんかしたらダメだよ。キルアは本気で強いからね。」

「わかった。ちなみに、どの程度強いんだ。」

「う~ん。カシムとソニアがタッグを組んでも勝てないって感じかな。」

「は~、ダンジョンマスターってのは皆、バケモノ揃いなのか。そんな相手に喧嘩を売らないように、明日の朝、皆に言っとくよ。」

「ありがとうございます。まぁ、ウィルの部下を殺すような命知らずなことはしないから安心してください。」



そして翌日。

街中を歩くキルアとカシム。

周囲の女性から熱い視線が集まっている。

キルアの外見を一言で言えば、美形。人間で言えば30歳過ぎぐらいの見た目である。

イケメン2人組は周囲の注目を集めながら、街を散策した。


「素晴らしい街だね。美しいし、治安も良い。スラムなんかも見当たらない。売られている食べ物や服なんかも外とは全然違う。クオリティが非常に高いね。」

「ここで作られる物はすべてクオリティが高いです。なので街の外に出す物は制限しています。無制限に街の外に製品が出ると市場のバランスが崩れて大きな問題になるらしい。」

「そうだろね。ここの製品を私に売ってもらうことは可能かな?私のダンジョンで使用するだけなので、外に出回ることはないよ。」

「残念ながら、私に判断できることではないので、後でウィル様に相談してみますよ。」

「頼むよ。どうせなら、お金じゃなく、バンパイア製の美術品等と物々交換というのもいいかもしれないね。」

「ウィル様が喜びそうな提案ですね。」


ということで、夜にウィルとミレーヌに相談することになった。

「どうしても私のダンジョンだけでは用意できない物がある。今までは私が時々外に出て調達していたが、こちらと定期的に物々交換をするようになれば助かるのだが。」

「いいんじゃない。細かいルールはミレーヌと相談してよ。」

「先ほど見せて頂きましたが、そちらで作られた美術品等は非常に価値が高いです。それにここでは手に入らない素材等も手に入るので、こちらとしても十分メリットがあります。定期的にそちらの代表者に来て頂いて、交渉するようにしましょうか。」

「そうだね。それで私はいいですよ。」


こうしてバンパイアとの交易が開始した。

なおミレーヌたちがキルアがバンパイアと知るのはまだまだ先である。

バンパイアにとっては外で遊べる大切な場所となった。

そして、貴重なバンパイアの物品はウィリアムの街の名産品の1つになっていった。

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