決着

・ハワード先生サイド

あれほど大規模な水攻めをしてくるとは予想外だった。だが、裏を返せば、工作兵を大量に投入しているということだ。

純粋な戦闘力ではまだ負けていない。

互角、あるいはまだこちらの方が戦える兵士の数は多いかもしれない。

川の上流を探らせたが発見できなかった。

もう移動しているのだろう。

作戦が成功しても油断はないか。

さすがドラクロア家の麒麟児。


兵士の合流はできた。拠点防衛戦力が極端に低くなっているが仕方ない。

もう攻めるしかないのだ。

まずは下流にある堰を破壊してウィリアムの拠点周囲に溜まっている水を抜く。

魔法兵を使えば破壊可能だろう。


堰の破壊に成功した。

水が流れ出て、水嵩が下がったら決戦だ。

魔法兵を城門に近付けて破壊する、中に入ってしまえば勝機はある。

足場は悪いが進軍できない程ではないだろう。

突破してみせる!



・ウィルサイド

足場が悪いなか、猛進してくる。

外壁の上から攻撃を繰り返すが、全然怯まない。

ハワード先生が兵を再編している間に外壁や城門を強化しておいた。これを突破されると厳しくなる。矢と瓦礫、魔法をどんどん外壁から落としていく。工作兵は弓矢が使えないので瓦礫を投げ落とすだけだ。突破されるのが先か、突破する前に先生の兵士を削りきれるか。

拠点の防御は城門だけではない。

その後も用意はしている。

防御の強さで相手の心を折る。

そこが勝負だ。



・ハワード先生サイド

硬い。

ここまで拠点を硬められると突破は難しい。しかも、こちらには工作兵がいない。奇策も使えない。正攻法しかない。悩まずに突き進むのみ!

攻撃は激しいが単調だ。

耐えきれない攻撃ではない。


なんとか城門に張りつけた。

犠牲を厭わず、攻撃を続ける。

城門のダメージが蓄積している。

これなら突破できるだろう。兵士は半減しているがかまわない。突破さえできれば五分の勝負はできる。


城門が壊れる!

これで!!


「なっ!」

城門の先は池だった。

後ろから押し出された兵士が次々に落ちていく。落ちて動けない兵士に外壁の上から矢が降り注ぐ。

前にも後ろにも進めない兵士に攻撃は止まらない。

逃げるにしても足場が悪く、すぐに動けない。それに一度逃げれば、もう拠点を落とせるだけの戦力は用意できないだろう。ここまで来た以上、突破しかない。

しかし、指揮に迷いと諦めが出た。

一度崩れた気持ちはすぐに戻せない。

想定を超えた守りに攻め手が思いつかなかった。



試験終了。

結局、ハワード先生はウィルの拠点を攻略することが出来ず、判定でウィルの勝ちになった。


「ウィリアム、お前の勝ちだ。

まさかこんな展開になるとわな。

何故こんな策を取ったのか教えてくれ。」

「普通に戦えば勝てる確率は低いから、最初から正攻法は諦めていました。地形を見て、作戦を思いつきました。後は先生なら効率的に斥候兵を動かすだろうから、無意味で非効率な場所に工作兵を隠して、見つからないことを祈るだけでした。」

「なるほどな。ウィリアムなら効率的に動くだろうという先入観が私の敗因か。良い教訓になった。」

「ハワード先生と試合をしたら、たぶん10回中、2~3回ぐらいしか勝てないですよ。」

「戦いで大切なのは確率ではない。確率が低くても、その低確率の勝利を最初に持ってくるのが実力だ。その力を発揮したウィリアムに私は最高点をつけることしかできん。」


パチパチパチパチパチパチ

クラスメイトたちから割れんばかりの拍手が送られた。


期末試験は今のところ順調だね。

筆記試験、実技試験、用兵術。すべて問題無し。残すは古代魔法考察。

皆はこの授業はどうしようもないと思っているみたいだけど、ある意味一番自信のある授業でもある。なにせ、ウィルは古代魔法の復活に成功している。さすがに見捨てられた地に行ってトレーニングしたとは言え無いので、習得方法は秘密にしないといけないけどね。



古代魔法考察の教室に移動した。

教室には20人程度の生徒がいる。

熱心に授業に参加していたのはウィルとミラぐらいだろう。

他の学生は簡単に最低限の点数を得ようというのが目的で、学園でも底辺の学生たちだ。

ミラ先生が教室に入ってきた。


「今日は期末試験だ。考察した内容をレポート用紙に書いて提出してくれ。」

学生たちがレポート用紙に記入を始める。

しばらく時間が経過した。次々に学生がペンを置いていくなか、ミラだけが書き続けている。

「先生。」ウィルが手を挙げる。

「ウィリアムか、なんだ?」

「見て頂きたい魔法があるのですが、よろしいでしょうか。」

「試験に関係する魔法か?」

「100の言葉より1回の実演です。」

「まさか!古代魔法の再現に成功したのか!」

「成功か失敗かを判定してください。」

「わかった!グランドに移動するぞ。

ミラ、まだ途中のようだがいいか。」

コクり、と頷くミラ。

ダリア先生は他の生徒には確認すらせずに移動を開始した。

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