鉱山都市コンラッド

現在、ウィリアムは帝国にある鉱山都市コンラッドにいる。

コンラッドは帝国最大の鉱山の麓に広がる大都市である。製鉄、鍛冶の施設が多数存在している。

帝国の武器、防具の最大の供給源となっている都市だ。


ウィルは今回の侵攻のツケを帝国に払わせるためにやってきた。武器、防具の供給源であるコンラッドに損害を与えることで、帝国の侵攻する体力を削ることが目的でもある。

実際に何をするかは決めていない。

具体的に何をするかは現場に行ってから決めようと思っている。


学園があるから、平日の夜に多少の調査はしたけど、週末しかゆっくり時間が取れない。

とりあえず、鉄鉱石の保管場所と錬成後の鉄の保管場所、出来上がった武器・防具の保管場所は確認している。

それらを奪ってしまえば打撃になるのは間違い無いからね。


警備はあるけど、僕からすればザル。簡単に入れるし、アイテムボックスに入れるのも一瞬。ただ入る量に限界があるから、何回か転移を繰り返さないといけないだろうけどね。


まずは武器・防具の完成品を奪う。

運搬用に整理されているから、アイテムボックスに入れるのも楽々だね。


次は鉄。

こちらも加工しやすいインゴットになっているから奪いやすい。ただし、量がやたら多いから、奪うのにかなり時間がかかった。


次は鉄鉱石。

これはさすがに一晩では無理だね。

嵩が半端じゃない。

でも、さすがに明日は騒ぎになっているだろうから、どうしようかな。

とりあえず様子を見てみよう。

日中の様子を隠れて確認して回ろう。



・・・大失敗だ。

鉱山を見に行った時に失敗に気付いた。

鉱山を監督している幹部の会話を盗み聞きした時のことだ。

「どうする?恐ろしいほどの量の武器・防具・鉄が忽然と失くなったらしいぞ。」

「あぁ。ただ上の連中は犯人探しはもちろんだが、当面、鉄鉱石の産出量を大幅に増やし、錬成場、鍛冶場を終日稼働させるらしい。」

「なら奴隷たちを不眠不休で働かせるか。」

「だが、今まで以上に働かせれば死人が大量に出るぞ。」

「仕方ないだろう。奴隷の補充を先に要請しておこう。」


僕のミスだ。

鉱山で働かされている奴隷の扱いまで考えていなかった。

僕が盗み出したことが原因で大量の奴隷が非常に過酷な労働を強いられる。おそらく大量の死人が出るだろう。

そんなことはあってはならない。

すぐに手を打たないと。



すぐに、ダンジョン街に戻って、いつものメンバーに諸々の準備を指示してきた。

方々に転移を繰り返して準備をしているうちに日没の時間になった。


日没とともにコンラッドに戻る。

鉱山で働かされている奴隷の宿舎に忍び込む。当然、逃亡防止の見張りの兵士はいるが、全員を眠らせる。


「奴隷の皆さ~ん。これから帝国を脱出しま~す。見張りの兵士は全員眠らせているから安心してくださ~い。」

ザワザワとしているけど、誰も出てこない。

まぁ警戒するよね。


「このまま奴隷として死ぬまで働くのは嫌でしょ。それとも帝国の戦力を増強するために、このままここで命をかけたいのかい?」

「そうじゃないんだ。俺たちには他に選択肢が無いんだ。生きるためにはここで働くしかないんだ。」

「昨日まではね。

僕はエール王国の人間です。転移魔法で皆さんを安全な場所に移動させることができます。信じてついてきてください。」

「いきなり来て、信じてくれ、と言われても、信じられないに決まっているだろう。」

「気持ちはわからなくはないけど、ゆっくり議論している場合じゃないんだ。ここよりヒドイ場所ではないことは確かだよ。それとも不安だからってここに残るの?僕と一緒に人が抜ければ、人数が減って更に大変になるよ。」


ザワザワの声は大きくなったけど、なかなか動かない。

「僕の名前はウィリアム=ドラクロア!

『ドラクロア』はドルマ帝国に屈辱を与える存在だ!

さあ!決断の時だ!

ここに残るか、新天地に賭けるか!

選択権は皆にある!

選べ!

僕とともに来い!」


・・・

「連れて行ってくれ。」

1人の男が声を上げた。

そこからは雪崩のように、どんどん参加者が増えていった。

その時、

「頼む。まだ鉱山で働かされている連中がたくさんいるんだ。そちらも助けて欲しい。」

「当然だ。ここのみんなを逃がしたら、鉱山に行くよ。」

宿舎にいた奴隷の転移を終えると、その足で鉱山に向かった。

通常でも過酷な鉱山での労働を夜中にもさせるってやり過ぎでしょ。


鉱山に到着すると敵も味方も関係無しに全員眠らせる。

カシムとソニアに手伝ってもらいながら、眠った坑夫を集めて転移させていく。

夜明け前には全員の転移を完了させた。



転移先はドラクロア領の南方の未開地。

ダンジョン街のある辺境とは方角が違う。

川が近くにあり、開拓向きの平野だ。

唯一の問題は現在進んでいる開拓村から、かなり奥地に進んだ場所にあることだ。

とりあえずの当面の生活物資などはマリベルさんたちに準備してもらって、迎え入れる体制を整えてもらっている。

ダンジョン街とここに転移陣を設置し、簡単に物資を運べるようにしている。


今後については外壁や住居、畑の下準備はこちらで行う。

農耕は自分たちでやってもらう。

最初の収穫までの食糧に関してはこちらで用意する。問題無く収穫できるようになれば自給自足をしてもらう。

それと街道の整備もこちらで行う。

ここからスタートして開拓村を通ってアデードにつなげる計画だ。

そこからは、父上にお任せするつもりだ。

ここはダンジョン街とは違って直轄するつもりは無いからね。


ちなみに、連れてきた奴隷が圧倒的に男ばかりだったので、後日、女性奴隷も大量に連れてきた。もちろん、同意を得てだよ。

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