赤い悪魔

翌日。ダンジョン内街の市庁舎会議室にて。

ウィルからリクソンを紹介された街のメンバーがみんな頭を抱えている。


「どこをどうすれば帝国の現役の将軍を連れてくることになるんだよ。」

代表してディーンが発言した。

「だって、優秀な人材なんだよ。もうちょっとで父上に勝ちそうだったし。」

「ドラクロア伯爵に勝ちそうな帝国の将軍って無茶苦茶危険じゃねぇか。」

「大丈夫だって。ちゃんと説得したし。」

「そこは疑っちゃいねぇけど。」

「とりあえず、300人ぐらいを目指そうと思ってる。警備隊とはまったくの別組織で主に街の外を受け持つ感じかな。住むのも基本的にダンジョンの外を想定してる。

今回は警備隊のメンバーに父上を手伝ってもらったけど、今後、戦争とかはリクソンの部隊にやってもらう。それで暇な時は訓練と街道整備をしてもらおうかな。」


「わかりました。兵舎はこちらで準備致します。」

ようやく立ち直ったミルが話を進めた。


「装備はどうするの?作るにしてもどれぐらいの物にするの?」

ミレーヌが詳細を聞いてきた。

「どうせなら目立つ装備がいいよね。僕が見本を作るから、それを真似させてそろえようか。」

「どれぐらいの攻撃力、防御力を目指すの?ウィル様が本気で作ると誰も真似できないわよ。」

「大丈夫だよ。そうだな。僕が指揮官用にリクソンの装備一式を作るよ。それと同じ装備を作って全員そろえることにしよう。格好いい装備作るから期待しててね。」

「ウィル様、頼むから張り切らないでね。」


「私としてはしっかりとした装備を用意してほしいのだが。」

「大丈夫よ。ウィル様が作るとしっかりとした装備になるから。

問題はしっかりし過ぎて伝説級の装備を簡単に作ってしまうことなのよ。ウィル様が作ると包丁でもミスリルソード並の攻撃力になってしまうんだから。」

「そんなオーバーな。」

会議室に変な沈黙が流れる。


「・・・悪かった。」

「あなたもすぐにウィル様に慣れるわ。」

「常識を忘れないでね。」

「決してウィル様の側に行かないでね。」


「なんか扱い悪くない??」

「「「「悪くない。」」」」


「まぁいいや。明日装備一式を作ってくるから、職人に渡しといて。」

「わかったわ。」


「人集めはどうしようか?」

「それは大丈夫でしょう。ダンジョン街所属の兵士募集と聞けば、応募者多数になるのは間違いありません。

それよりも独自に兵士を集めるのは、下手をすれば謀叛の可能性を疑われる行為です。オデロ様にしっかりご説明された方がよろしいかと思います。」

「そうか。じゃあ今度父上がアデードに戻られた時に報告しとくよ。」

「よろしくお願い致します。」



そして数十日後。

ウィリアム騎士団(仮)を設立することになった。

兵舎はダンジョン外街に建設中。完成するまでは簡易な大型テントを利用している。

人材も応募者多数となり、リクソンとディーンが協力して選んだ。


今日はウィリアム騎士団(仮)の立ち上げ式を町外れの広場で行うことになった。

広場に300人の兵士が並ぶ姿は壮観であった。

ウィルが作った防具で、見た目はロングコートの要所要所に金属のパーツがついている感じ。コート状のため、体格の異なる兵士たちでも使い回しがしやすい。

頭には頭巾を被っている。布製なのでサイズ調整が簡単にできるのが特徴だ。

手甲やブーツもお揃いの物を装備している。


そして、全身が真っ赤。

ロングコート、頭巾、手甲、ブーツ。

そのすべてが赤。

全身真っ赤な300人の集団は異様だった。

当然、指揮官のリクソンも同じ真っ赤な装備を着ている。作ったのはウィル。そのため他のメンバーの装備とは段違いの性能を誇る。


リクソンが前に立った。

「本日、このウィリアムの街に傭兵団が設立された。

まだ名前すらない。

当然だ。

まだ何の実績も無いからな。

これから我々はウィリアム様の手足として働くことになる。

ウィリアム様の成す偉業を支えるだけの力は今の我々には無い。

力を身につける。いかなる相手にも負けない力だ。たとえ100万の兵と戦うことになっても、敵を一方的に蹂躙できるだけの力だ。

そのためにこれから地獄のような訓練を受けてもらう。

いや、地獄すら生温いと感じるかもしれない。

耐えられない者は去れ。

耐えきれる自信のある者だけが残ってくれ。

地獄の訓練をくぐり抜けた後に栄光がある。共に栄光を掴み取ろう。」

「「「「おぉー!!」」」」


すごい盛り上がりを見せる。

リクソンの次にウィルが前に立つ。


「こんにちは。ウィリアム=ドラクロアです。みんな集まってくれてありがとう。

まずは最低限の実力は身につけて欲しい。上級職のレベル50ぐらいかな。その程度にはなってもらうよ。でないと使い物にならないからね。

皆に渡した装備ならレベル70ぐらいまでなら狙えるはずだから、心配しないで。

じゃあ、よろしくね。」


ザワザワザワザワ、、、

ざわめきが収まらない。

当然だ。

上級職自体が滅多にいない存在だ。それのレベル50など、あり得ない存在だ。

実際、エール王国最強のドラクロア軍にもレベル50はいない。

それを最低ラインとして示されたのだ。

動揺しない方がおかしい。


ここでリクソンが声を上げる。

「今、目下の目標が示された。

全員、最速で達成するぞ。

我々に動揺している時間は無いぞ。

この程度は当たり前と思え。

行くぞ!」


ここからウィリアム騎士団(仮)が始動する。

その装備の色から『赤い悪魔』と呼ばれるのはまだまだ先の話である。

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