将軍リクソン

リクソンはバルトブルグに向けて、峡谷を抜けて行軍していた。どうやらエール王国軍は砦に引き返したらしく、追撃はもう心配無さそうだ。

既に帝国領内に入っており、後少しでバルトブルグにたどり着く。


夜、テントで1人、考え込んでしまう。

これから私はどうなるのだろう?

今回の侵攻失敗の責任を取ることになるだろう。良くて左遷。悪ければ処刑。

私には身重の妻と幼い子供がいる。家族だけでも助けてもらいたい。

既に軍に同行した監察官は買収している。ただ最後は皇帝陛下の判断次第。これまで私は天才と言われてきた。実績を積み上げてきた。すべてが失われた。


「ちょっと邪魔するよ。」

「誰だ!」

リクソンは剣に手をかける。

「はじめまして。ウィリアム=ドラクロアです。少しいいかな?」

「どうやってここに来た?」

「もちろん、こっそり入って来たに決まってるじゃん。この程度の警備じゃ、僕は防げないよ。」


「何が目的だ?」

「スカウトだよ。どうせ帝都に帰っても責任を取らされるだけだろ。僕についてこないかい。もちろん家族も一緒に。」


「何故私をスカウトする?」

「う~ん、優秀だったからかな。想定した中でも、エール王国としては最悪に近い展開だったよ。おかげで色々と忙しかったからね。」

「私が知る限り、君の参加は無かったと思うが。」

「暗躍って感じかな。」

「具体的には何をしたんだ?」


「そうだね~、開戦前にフルブライト公爵に働きかけて援軍を出してもらったり、ドラゴンを戦場に放ったり、上級職レベル50以上の人間を100人近く派遣したり、数千個の消費アイテムを砦に届けたり、フルブライト公爵軍に伏兵の連絡をしたり、、、ざっくりそんな感じかな。」

「なっ!いや、あり得ない。そんなことができるはずがない。」

「でも今回の戦いではあり得ないことばかりだったでしょ。まぁいいや。証拠を見せるね。」


そう言うと、ウィルはリクソンに近寄り、一緒にダンジョン内のドラゴンの住みかに転移した。

「ここは?何があった?」

困惑するリクソンを無視して、ウィルは、

「みんな集合!」

そう言うと、ウィルの周囲にドラゴンが集まった。


「どう?少しは信じる気になった。」

「少し頭を整理させてくれ。」

「わかった。とりあえず戻ろう。」


そう言うと、再びさっきまでいたテントに戻っていた。

「転移魔法にドラゴンか。

1つ聞かせてくれ、何故前面に出てこない?

ドラゴンも道は塞いだが、積極的に攻撃はしてこなかった。この力があれば楽に勝てただろう。」

「そうだね。でも強過ぎる力は人の野心を刺激する。僕は今のエール王国のスタンスに賛同しているから、武力による拡大路線なんてやってほしくないんだよ。」

「理由はわかった。なら何故私をスカウトする?戦争を望まないなら必要無いだろう。」


「今回の件で、常識の範囲に収まる防衛力は必要だと痛感したんだよ。正直、ドラゴンを大暴れさせればだいたいの相手は倒せるけど、それが当たり前にできると思われたくないからね。」

「なるほど、規模はどの程度を考えている?」

「まずは300人ぐらいかな。今回の南門を守ったメンバーよりちょっと弱い兵士を想定している。」

「上級職レベル50以上よりちょっと弱いか。十分異常だと思うがな。」

「許容範囲でしょ。」

「しかし、私は帝国軍人だぞ。その私にそんな戦力を預けていいのか。」

「大丈夫だよ。言っとくけど、今回の砦の防衛戦力が相手なら、僕1人で簡単に滅ぼせるよ。」

「ちなみに君が本気を出せば、どの程度の戦力になる?」

「比較は難しいけど、本気を出せば今晩中に皇帝を殺して居城を破壊するぐらいはできるよ。」

「なるほど、君が平和を望んでくれていることに帝国は感謝しないといけないわけだな。」

「でも今回の侵攻のペナルティは払ってもらうよ。前回は城塞都市アイルバーグだったけど、今回は鉱山都市コンラッドを狙うつもりだよ。」


「数年前のアイルバーグの大混乱は君の仕業か。鉱山都市コンラッドは帝国の製鉄産業の中心だ。そこに問題が起きれば、帝国全土に影響が出るだろう。」

「たんまり鉄鉱石を頂こうと思っているんだ。」

「軍の装備に鉄は必須だ。鉄不足は軍事行動の足かせになることだろう。」


「さてと、少し話が逸れたけど、僕のスカウトに乗ってくれるかな。」

「わかった。世話になろう。よろしく頼む。私はこれからどうすればいい?」

「僕と一緒に帝都に行こう。それで家族や必要な物を持ち出そう。家は今度用意するから、今日は宿に泊まってよ。」


その後、ウィルとリクソンは帝都に転移。

家族や使用人を集め、家の中にあった物は大半をウィルのアイテムボックスに入れた。

そのまま全員でダンジョン街に転移。

リクソン一家と使用人は宿に入れ、すぐに屋敷を作って、家財道具一式を屋敷の前に出した。


驚異的な引っ越しスピードにリクソン一家がパニックになっていたのは言うまでもない。

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