幕間 アッパス砦の戦い その5

エリックを見送ったハンスはため息まじりに、

「は~、緊張した。エリック様なんて雲の上の存在だぞ、冒険者の俺からしたら。モンスターと戦う方が気が楽だぜ。

さてと、メルちゃんを守りながら、仕事をこなしますか。」


ハンスは油を撒き、火を放った。

眠ったまま焼かれていく敵兵たち。

凄惨な光景に敵兵は心を折られていく。


そして、北門においても状況は変わってきた。

一時は落ちる寸前まで追い込まれた北門もエリックの援護によってもちなおした。

更に、北門全域で兵士の怪我がその場で急激に回復するという異常な状況になった。

後ろに下がらずにその場で回復するというのは守る側にとって、非常に大きなアドバンテージとなった。


結果、4日目も砦を落とすことができずに、日没を迎えることになった。


リクソンは頭を抱えた。

ここまでやって、何故落とせないのか。

何が起きているんだ。

訳がわからない。

常識を見失ってしまった。

兵士が次々に眠らされる。

敵兵が目の前でどんどん回復される。

たった数十人で万の兵を圧倒する。

正体不明の攻撃で理由もわからず殺される。


どう考えても落とせる気がしない。

今日の午前中の攻撃を超える攻撃はできない。兵士の士気も下がってきている。

これ以上、強引に攻めても無駄だろう。明日は最低限の兵士だけを残して主力を移動させよう。エール王国内部に向かって移動を開始すれば、もしかしたら釣られて出てくる部隊もあるだろう。出てくれば叩く。籠城を続けるようなら無視して進む。

こうでもしないと戦況は動かない。

吉と出るか凶と出るか。



5日目。

ドルマ帝国軍は移動を開始した。

それを察知したオデロは全軍に砦を出ることを禁止すると伝令を走らせた。


これにより、アッパス砦の戦いは小康状態となった。散発的な攻撃はあるが本格的な攻撃は行われない。


砦を離れたドルマ帝国軍はそのままエール王国内部に進軍。

しかし、アッパス砦から程近い山道にてフルブライト公爵軍の奇襲にあい、大打撃を受けた。


「全軍、撤退だ。帝国まで退却するぞ!」

リクソンが叫ぶと、

「まだ戦えます。撤退は時期尚早では!」

反対意見を言う将が出てきた。

「ここに伏兵がいた。それも万単位だ。つまり、既にプルートウの領地は王国軍が押さえているということだ。そこを強行して軍を進めても孤立してしまうだけだ。我々は負けたんだ。後は被害を少なくすることだけだ。」


リクソンの指揮のもと、ドルマ帝国軍は撤退を開始。

追撃するフルブライト公爵軍とアッパス砦から出てきたオデロたちの挟撃にあう。

大きな被害は出たが、オデロたちを突破し、そのまま帝国に向けて退却を進めた。

フルブライト公爵軍の追撃が続いたが、プルートウの配下の兵士を囮にすることで時間を稼ぎ、逃げきった。


これにより、一連の戦いは終結した。



そしてアッパス砦の一室にオデロ、エリック、アルガスとフルブライト公爵軍を率いて来たロナルドが集まった。

「ロナルド殿、援軍に来て頂き、誠に有り難かった。」

「間に合って良かったです。もしもエリック様に何かあればローザリアに叱られてしまいますからね。」

「ハッハッハッ、それは怖いですね。」

戦いが終わったことで、和やかな空気が流れる。


「それにしても、何故こんなに早く援軍に来られたのですかな?」

「あぁ、それはウィリアム様のおかげですよ。」

「ウィリアムの?」

「そうです。ウィリアム様が父上にプルートウ侯爵が裏切っている可能性が高いので、至急兵を出して欲しいと要請されたのです。」

「しかし、子供の要請で、よく兵を出してくださいましたね。」

「普通ならあり得ないですよ。証拠もなく、疑う理由も特に無かったですからね。私もどうやってウィリアム様が父上を説得したのか、どうやって裏切りの情報を仕入れたのか、知りたいですよ。」


「それにドルマ帝国軍の数はフルブライト公爵軍より多かったでしょう。よく追い返せましたね。」

「それもウィリアム様のおかげです。ウィリアム様の部下が、『もう少ししたらドルマ帝国軍がこの道をやってくるから、ここで兵士を忍ばせ、奇襲をかけて欲しい。』と言ってきたんですよ。そしたら、情報通り無防備に進軍していたので、奇襲に成功しました。」


「なるほど。それでドルマ帝国軍は、プルートウ侯爵領が既にエール王国軍に押さえられていると考えて、退却を選択したのだろう。」

「しかし、何故ウィリアムはドルマ帝国軍の動向を正確に把握し、ロナルド様に伝えることができたのでしょうか?」


「わからん。ただ間違いないのは、ウィリアムが裏で色々と手を回していた、ということと、それが無ければ我々は負けていたということだ。今回の帝国の指揮官は相当やり手だった。」

「今度ウィルに会った時に色々聞かせてもらいましょう。」

「そうだな。」


「砦はしばらく我々が守ります。皆さまは王都に帰還してください。今回は大物貴族の裏切りですからね。事実確認にも時間がかかるでしょう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る