幕間 アッパス砦の戦い その4
3日目午後。
ドルマ帝国軍の指揮官、リクソン将軍は頭を押さえながら、報告を聞いていた。
『ドラクロア』はバケモノだ。その名を知らぬドルマ帝国軍人はいないだろう。普通に同等の戦力で戦えば勝てない。だからこそ、プルートウに裏切らせ、圧倒的な状況を作ったのだ。
なのに、突如ドラゴンが現れて退却を許してしまった。まるで伝説の英雄譚に出てくるような奇跡ではないか。
砦に籠られたのは厄介だが、戦力差は圧倒的だった。しかもオデロ=ドラクロアがいかに凄くとも4門を指揮することはできない。門さえ落ちれば、後は袋のネズミ。
それなのに、、、
やはりオデロ=ドラクロアの指揮する北門は頑強だ。簡単には落とせない。それは想定内だ。
それ以外が想定外だった。
南門は異常な強さの連中が守り、攻撃の糸口すら掴めない。
東西の門も消費アイテムを潤沢に使ってきた。これも普通ならあり得ない。気休め程度しか、こんな砦には無いのが当たり前だ。すべての門を攻め落とせずに日没を迎えてしまった。
そして2日目。
消費アイテムは底をついたようだが、体制を整えてきた。東西の門にドラクロアから援軍が出された。こんな状況で援軍を出すオデロ=ドラクロアの判断力と減った人数でも戦ってみせる統率力はさすがとしか言いようがない。
援軍は自身の息子2人。
長男のエリックは噂に違わぬ統率力を示した。次男のアルガスも驚異的な武威を示した。その2人の活躍により、また落とせなかった。しかし突破口は見いだした。
明日は落とせるはずだ。
3日目。
何故だ?アルガスに重傷を負わせた。
西門は柱を失い落ちるのは目前と思われた。
そこからの報告が意味不明だった。
門に近づいた部隊が次々に倒れていく。誰のどんな攻撃かも不明。そんなことは通常あり得ない。
現場は瞬く間にパニックに陥った。そんな状況でアルガスが戦線に復帰してきた。それもきっちり回復を完了してだ。謎の攻撃はおさまったが、結局攻め手に欠き、落とすことができなかった。
落とせない理由がわかった。回復が異常に充実しているんだ。だから負傷者が異常なスピードで戦線に復帰してくる。兵士の数は少ないのに、すぐに回復するから、減らないのだ。ならば確実に殺していくしかない。こんなところで、これ以上時間を浪費できん。こちらの損害も覚悟で、突撃を行うしかない。
簡単に落とせるはずの砦が落ちないことで、こちらの士気が下がってきている。
もはや損害を減らすとか、砦を落とした後の段取り等、無視だ。
『ドラクロア』を討ち取る。
砦を落とす。
それ以外は何も考えない。
明日が決戦の時だ。朝から突撃だ。
無能と罵られようが知ったことではない。
戦場を血に染めてやる。
4日目。
戦場は異様な興奮に包まれていた。
ドルマ帝国軍の突撃。
通常、数的優位に立ち、包囲している軍が行う戦術ではない。
昨日までとは比較にならないスピードで両軍に被害が広がっている。
砦の内外は赤黒い血の色に染まっていた。
北門にて。
「どうやら、ドルマ帝国の指揮官は相当に優秀なようだな。」
オデロが苦しそうにこぼした。
「どうされますか。」
「こんな猛攻はそうそう継続できるものではない。すぐに息がきれる。それまで耐えるぞ。」
「はっ!」
南門にて。
「参ったな。これはウィル様の想定の中で最悪のパターンだな。さすがに南門を離れる訳にはいかないし、ソニアも大変だろうな。
フッ、今度愚痴に付き合わないとダメだな。」
西門にて。
「ウオォォォォォ!!
死にたいヤツはかかってこい!」
ドルマ帝国軍の猛攻を真っ正面から受け止めるアルガス。
ただ、アルガスが倒す数より、正体不明の攻撃により倒れていく敵兵の数の方が圧倒的に多い。
「何故敵兵は倒れていくのでしょう?」
部下からの問いかけに、
「知らん!なんでもいい、気にしている暇があったら敵を倒せ!」
東門にて。
「厄介な相手だな。どこまで粘れる。」
誰にも聞こえない声量で本音をこぼすエリック。
どう考えても削りあいに耐えられない。
圧倒的な兵力差がのしかかる。
いつ、どこで破綻してもおかしくない状況だ。
「ここが正念場だ。今の攻撃をしのぎきれば、ヤツらに次は無いぞ!」
檄を飛ばすが、そんなことでどうにかできる段階ではない。皆、既に限界以上の戦いをしている。
エリック自身も傷だらけ、足もフラフラになっている。
急激に意識が遠のく。
・・・もう駄目なのか。
いや、待て。何かおかしい。
敵も味方もバタバタと倒れていく。
攻撃が当たっているわけではない。
エリックは朦朧とする意識の中、自らの太ももにナイフを突き立てる。
「クッ。ハァハァハァ。」
意識が少しだけクリアになる。
「無茶し過ぎですよ。エリック様。」
「誰だ。」
「カシム様の部下です。ここは今、歌魔法で無差別広範囲に眠り攻撃を行っています。東門の兵をまとめて北門の支援に行ってください。」
「東門はどうするんだ?」
「このまま眠らせ続けます。200人程度を残してもらえば十分です。」
「わかった。任せたぞ。」
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