幕間 アッパス砦の戦い その3

3日目。

昼前にエリックのもとに急報が入った。

「アルガス様が負傷!西門が陥落の危機!」

「なっ!」


東門も苦しい状況だ。

エリックが浮き足立てば、すぐに総崩れとなるだろう。エリックが東門の要になっている。アルガスのことは気になるが、動揺を周囲に悟られる訳にはいかない。


「心配は無用だ!父上はこういう状況も想定されている。我々は東門の死守に集中せよ。」

信じてるぞ!アルガス!



時を遡る。

西門では苦戦のなか、アルガスが八面六臂の活躍をしている。

「ドルマの腰抜けども!

ここにアルガス=ドラクロアがいるぞ!

俺の首には金貨100万枚の価値があるぞ!

命の惜しくないヤツはかかってこい!」


アルガスの部下が声をかける。

「アルガス様。突出し過ぎです。囲まれています。これでは、、、」

「わかっている。だが、俺たちが敵の戦力を引き受ければ、それだけ他の部隊の負担が減る。俺についてこい!」


アルガスは上級職『パラディン』。当然ハイレベル。装備も特級品。一般兵など相手にならない。

バタバタと敵を薙ぎ倒していく。


「どうした!どうした!

俺の首はここだぞ!

ドラクロア最強の男を止めたければ、もっと強者を連れてこい!」

アルガスの叫び声は味方を鼓舞し、敵兵を竦み上がらせる。


獅子奮迅の活躍をみせるアルガス。

だが急激に動きが悪くなる。

「はー、はー、はー。」

「どうした!ドラクロア!息が上がってるぞ。」

「さっきまでの威勢はどうした。」

「逃げてもいいんだぞ。」


アルガスの周囲を高レベルの敵兵が固めている。一般的な兵士の平均レベルは10程度。

しかし、アルガスの周囲をレベル30前後の猛者5人が囲んでいる。

着かず離れず、アルガスの動きを制限してくる。その中で負けないアルガスの強さは異常と言えるだろう。だが倒せる敵兵の数は減り、疲労の蓄積は多大だ。


その時、

「助けてください!アルガス殿!」

アルガスに助けを求める貴族の叫び声が響く。

アルガスは不甲斐ない貴族に苛立ちを覚えつつも、敵兵に取りつかれ慌てている味方の姿が見える。


「ウオォォォォォ!!」

叫び声を上げつつ、囲いを強引に突破しにいく。

敵兵2人を撥ね飛ばす。

そのまま無理矢理押し通ろうとするが、もう1人が阻止すべく前に立つ。

「邪魔だ!」

力任せに薙ぎ払う。

その時、背後から槍の一突きがアルガスを襲う。

「グッ!かすり傷だ!」

背中の槍を引き抜き、槍使いを引き寄せて斬りつける。

そこに敵兵が殺到する。

アルガスは我武者羅に剣を振るうが、先ほどから囲んでいた猛者たちはこんな隙を見逃さない。

どんどんダメージが積み重なる。

「まだまだ、その程度か!」

虚勢を張るアルガスに先ほどまでの声の張りはない。


ここまでか。。。

アルガスが自身の最期を覚悟した時。

異変が起きた。

周囲の敵兵が瞬く間に倒れた。


アルガスの部下たちが、

「好機だ。なんとしてもアルガス様を治癒兵のもとに連れて行くぞ。」

部下たちがアルガスを担いで下がって行く。

周囲の敵兵がどんどん倒れていく。

理由はわからないがチャンスに違いない。

なんとかアルガスを担いで砦内に戻ることに成功した。



「は~。アルガス様を守るのも大変よね。私はメイドの仕事をしてたいんだけどな~。」

ソニアがため息をつきながら、引き金を引きまくる。

さすがに戦場でいつものメイド服はまずいので、ウィル様特製の黒装束を着ている。

おかげで、敵も味方もまともにソニアのことを認識できない。


ソニアの役目は裏方でピンチの時にサポートすることだ。カシムと違って、ピンチにならなければ仕事はない予定だったけど。

戦況を見て、絶対に忙しくなる、と覚悟していた。

当然カシムのところは大丈夫。

オデロ様もすぐに崩れることはないだろう。

東西の門を注視していた。


さすがエリック様。全体を見て、指揮を取っている。回りのサポートをしてみんなの実力以上の力を発揮させている。周囲との信頼関係の構築している。

アルガス様も日頃は皮肉屋で好きになれない性格だけど、戦場では常に最も激戦地に身を置く、献身的な行動が印象的だ。


でもアルガス様が最初に崩れることは予想できた。強いとは言え、1人に背負える荷物には限界がある。敵にもバレてたんだろう。

アルガス様をピンポイントに狙われた。


殺される前にソニアの援護が間に合った。

砦内に戻ればミリアがすぐに回復してくれるだろう。でも問題はアルガス不在の間、西門の守りをどうするか。柱になっていたアルガスが負傷したことで動揺が走っている。敵はチャンスとみて、攻勢を強めてくる。


こんな最悪な状況をサポートするのは、かなりの重労働だわ。

とにかくアルガス様が戻るまで、代わりにドルマ帝国軍と戦わなければならない。敵軍の隊長格を中心に狙い撃つ。ソニアの銃弾の破壊力は圧倒的で、何人もの兵を一撃で貫通する。

ドルマ帝国軍は瞬く間に動揺が走った。

理由もわからずバタバタと、門に辿り着く前に倒れていくのだ。目に見えない恐怖は敵軍兵士に伝染し、混乱と恐怖に包まれた。

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