幕間 アッパス砦の戦い その2

アッパス砦には東西南北4つの門がある。

北門をオデロ率いるドラクロア直属部隊1000人。

西門をゴステロ伯爵率いる2000人。

東門をバルバドス伯爵率いる2000人。

南門をカシムたち50人。


このような配置で迎え撃つことになった。

南門の人数の少なさには反対意見が多数出たが、オデロにより決定され、反論は禁止された。

「私たちに一門を任せて頂きたい。」

「たった50人で守ると言うのか。」

「はい。」

「どこか1つでも門が落ちれば、砦は終わりだぞ。」

「だからこそ、私たちが一門を受け持ち、負担を減らしたいと考えています。」

「やれるのか。」

「ウィリアム=ドラクロアの名に懸けて。」

「わかった。南門を任せる。」

「はっ!」


「ちょっと待ってくれ。いくら精鋭とは言え、たった50人で守るなど不可能だ。最低でも1000の兵を配置すべきです。」

「そんな若造に任せるなどあり得ないぞ。」

「せっかくの勝機をみすみすどぶに捨てるのか。」


「私の決定に従ってもらう。総大将は私だ。私が指揮をすれば必ず勝つ。だから今は私の判断に従って欲しい。」



そして翌日、ついに戦いが始まった。


初日。


「戦況はどうか。」

オデロの問いかけに、エリックが答える。

「北門は安定しています。兵たちの練度が違いますから。それにカシムが連れてきた治癒兵が優秀です。兵の消耗がほとんどありません。」

「他はどうだ。」

「南門は心配ありません。圧倒的な強さです。カシムたちの強さに敵兵の腰が引けて、攻めあぐねているようです。

問題は東西の門です。現在は『火精の吐息』を使ってなんとか戦況を保っていますが、おそらく今日で使いきる勢いです。明日以降、どのように戦うかが見えない状況です。」


「厳しいな。東門にはエリックと100人の兵、西門にはアルガスと100人の兵を援軍としていかせる。崩れ無いように遊軍として動いてくれ。」

「北門はどうしますか。さすがに800で守るのは難しいのでは?」


「東西の門は崩れ始めると誰も支える人材がいない。北門はたとえ苦境に立たされても、すぐに崩れるような弱兵はいない。私の直属部隊は鍛え方が他とは違うからな。」



2日目。

「もうすぐ日没だ。まずはそこまで耐えるんだ。」

エリックが周囲に檄を飛ばす。


東門は苦しい戦いだった。

おそらく、敵もドラクロア家が守る門以外を狙って精鋭を集めているんだろう。

それに引き換えこちらは寄せ集め部隊。

兵の数は北門の2倍以上だが、1人1人の能力も低く、連携もとれていない。

崩れそうなところをエリックたちが支えに走り回った。ギリギリのところでしのぎきった。


カシムが連れてきた『歌魔法の使い手』『治癒兵』の影響も大きい。歌魔法は広範囲にステータスアップの効果を与えてくれた。

治癒兵も範囲回復魔法が強力だった。

普通は負傷者1人を回復させるのにも時間がかかる。それが数十人を1度に回復してくれた。瞬く間に負傷者が全快して戦線に帰ってくる。


なんとか守りきれた。

でもまだ2日目。

フルブライト公爵軍の到着はまだまだ先だ。

そして夜間も本格的な攻撃は無いが、延々と嫌がらせのような攻撃をしてくる。

ドルマ帝国軍は人数が多い。交代で休憩も取れるがこちらは嫌がらせにより、確実に精神面を削られている。ドラクロア直属部隊はこの程度のことで心を折られるような者はいない。

しかし、東西の門を守る兵たちは如実に疲労の色が出てきている。


明日は更に厳しい戦いになるだろう。

最低でも後2日は堪える必要がある。

もう北門の兵を回すこともできないだろう。

兵士の士気を保てるのか。

不安要素だらけだ。


西門も心配だ。今日は乗り越えたが、アルガスは大丈夫だろうか。貴族たちとうまくやれているのだろうか。アルガスは最前線に自ら出て皆を引っ張るタイプだ。全体を見渡すのは得意ではない。それに協調性も低い。

だが今は反対側の門を心配する余裕はない。エリックにできることは東門をしっかり守りきることだけだ。


エリックは疲れきった兵士たちに声をかけて回る。


「良い働きだったぞ。城壁を登ろうとする敵兵を叩き落とした手際は見事だった。」

「エリック様!ありがとうございます!見て下さってたんですね。」

「今は休んでくれ。明日も期待しているぞ。」


「何度負傷しても戻って槍を持つ姿はエール王国兵の鑑だぞ。」

「ありがとうございます。」


「名前はなんと言う。」

「エッ、エリック様。パパス村のカズンです。」

「カズン。肩の力を抜くんだ。治癒兵がしっかりいるからな。負傷したら無理をせずに一度下がれ。治療を受けてから戻ってくればよい。」


エリックは少しでも明日につながるように。時間が許す限り声をかけ続ける。

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