幕間 アッパス砦の戦い

アッパス砦の一室にて。

「人払いは大丈夫だな?」

「はい。盗み聞きの心配はございません。」

オデロ、エリック、アルガスの3人が集まっている。


「状況はどうだ。」

「砦にたどり着いたのは約5000。右翼に所属していた兵がほとんどです。左翼は壊滅させられたのでしょう。

負傷者も多く、まともに戦えるのは3500程度です。」


「そうか。あの状況を考えれば、かなり多く残った方だな。負傷者の回復はどうだ。」

「足の遅い治癒兵は砦までたどり着けておりません。元々砦にいた治癒兵が対応にあたっておりますが、あまり期待できる状況ではありません。」


「敵の様子はどうだ。」

「数はおよそ50000。ドラゴンを避けて、迂回ルートでこちらに向かっています。おかげで1日の猶予はできました。」


「父上、戦力差は圧倒的です。ここは早急に退避し、アデードに戻りましょう。」

「ならん。ここがすぐに抜かれれば、ドルマ帝国軍は勢いに乗って侵攻してくる。王都での決戦になるだろう。被害が大き過ぎる。少しでも準備ができるように、ここで足止めをしなければならない。」

「王都には早馬を走らせました。数日中には情報は伝わるでしょう。」

「少なくとも1週間は足止めをしたいところだな。」


「この戦力差では瞬く間に落とされます。父上、意地を張らずに退きましょう。」

「私は残る。エリック、アルガス、お前たちは砦を抜けて、アデードに向かえ。」

「なりません!私たちが抜けたことを皆が知れば、士気が崩れます。開戦前に戦力が半減してしまいます。私たちも残ります。」

「うむ。よいのだな?」


「もちろんです。

アルガス、お前の武勇がなければ兵たちは動揺する。お前の力も貸して欲しい。」

「・・・わかりました。ドルマ帝国と裏切り者たちにドラクロアの恐ろしさを教えてやりましょう。」


「お前たち。。。すまない。

エリック、主だったメンバーを集めろ。

士気を上げておかねば、日暮れとともに逃げ出す者が多数出るだろう。」

「わかりました。会議室に集めます。」



アッパス砦の会議室にて。

砦に逃げ込んだ貴族たちが集まっている。

オデロが口を開く。

「皆、よく集まってくれた。

作戦会議を開きたい。」


「この状況では戦えません。」

「早急に退避し、プルートウ侯爵領を抜けて、パリントン伯爵領まで下がり、体勢を整えるべきだ。」

「とにかく補給をくれ、食糧をすべて失ったんだ。」

「敵軍は6万とも7万とも言われている。差が大き過ぎる。」

貴族たちは口々に意見を言うが、どれも後ろ向きなものばかりだった。


「ハッハッハッ!」

突然オデロが大声で笑い出した。

「どうした?」

「おかしくなったのか?」


「おかしいのは諸君らだ。この程度の状況で弱気になるなど。ここには『ドラクロア』がいるのだ。勝利は常に『ドラクロア』とともにあるのだ。何を怯える必要がある。」

「ほう、では何か策があるのか?」

「当然だ。想定外のことが起きるのが戦場だ。その度に弱気になって逃げることばかり考えていたら、勝利など無いわ。」

「聞かせてもらおうか。」


「この戦い、当然だが我々だけで敵軍を倒す必要はない。我々は数日、ここで敵軍の足を止めるだけでいいのだ。

簡単なことだろう。」

「どこが簡単なんだ。この戦力差だ。一瞬で落とされるぞ。」

「仮に数日粘れたとして何が変わるんだ。援軍など、まだまだ先だろう。」

「絵空事を言って、我々をここに残して逃げる気か。」


「好き勝手なことを言ってくれる。

私は貴族が得意な交渉や駆け引きは苦手だ。唯一得意なのは戦いだ。戦いに関してはここにいる誰よりも得意だ。

その私が大丈夫だと言っているんだ。

皆が逃げずに砦で戦えば、1週間後には、どんな報償を頂けるかという話題で盛り上がっていることだろう。」


「ドラクロア卿、具体的なプランを教えて頂きたい。」

「うむ、、、」


ダダダダダッ

会議室に兵士が駆け込んだ。

「失礼致します。援軍が到着致しました。

ウィリアム=ドラクロア配下のカシム様の一団です。こちらにお通ししてもよろしいでしょうか。」

「よし、通せ。」


カシムが颯爽と登場する。

「よく来てくれた。」

「ご無事で何よりです。

援軍、支援物資を持って参りました。」

「内容を伝えよ。」


「レベル30を超える精鋭50人。

治癒兵など20人。

ポーション3000個。

『火精の吐息』3000個。

その他食糧多数です。」


「なかなかの内容だな。現在、砦には負傷者が1500いる。明日までにどこまで治療できる?」

「連れてきた治癒兵もレベル30を超えています。明日には全員回復できます。」

「フッフッフッ、これなら戦えるな。」


「それとこちらをご覧ください。ウィリアム様からの密書です。」

オデロは手紙を読み終えると、

「この戦い、勝利は目前だ!

既にフルブライト公爵軍がプルートウ侯爵領に進軍している。不意を突かれた守備部隊は総崩れとなり、フルブライト公爵軍が快勝。既にこちらに援軍として向かっている。

ここまでたどり着くのは5日後。それまで守り抜けば勝利だ。」

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